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2018-12-12 00:00
(連載1)ロシア軍事力の資金源と物品調達体制の謎
河村 洋
外交評論家
ロシアが大国として衰退してゆく一方、中国がアメリカの覇権を脅かしているという専門家が増えてきている。GDPと国防費から見れば、ロシアはアメリカどころか中国とさえ競争相手にならない。IMFによる2018年の推計では、ロシアのGDPはカナダに次ぐ11位である。カナダは費用効果を優先した国防政策を採っているので、ロシアは過剰な軍事支出をしているようにも見えてしまう。ともかく楽観的な専門家でも特に中国に対する地政学的なカウンターバランスを求める我ら日本人の多くが考えるように、ロシアの脅威がそれほど容易かつ急速に低下する運命にあるという見解には疑問を抱かざるを得ない。
中国がますます大きな脅威になることは間違いないが、だからと言ってロシアを軽く見て良いわけではない。プーチン政権は大々的な軍事力の増強を次々に打ち出し、そうした例には高度なアビオニクスを備えたスホイ35およびミグ35戦闘機、スホイ57やPAK-DAといったステルス戦闘機および爆撃機、高度なセンサーを備えたT-14戦車などが並ぶ。これら通常兵器に加えてプーチン政権下のロシアは核兵器についても、RSM-56ブラバー潜水艦発射弾道ミサイル、9K720イスカンダル短距離弾道ミサイル、そしてプーチン大統領によるINF条約のディール・ブレーカーとして最近公表された悪名高き9M729巡航ミサイルといった新世代に向けた増強に乗り出している。実際にこれら兵器の多くはすでに実戦配備されている。さらに、ロシアはシリアとウクライナでの戦争および紛争を抱えている。プーチン氏は充分な資金源もなく、これだけ大々的な軍事力増強を行なえるのだろうか。どうやらウラジーミル・プーチン大統領は不可能を可能にしているようだ。
私はここ2~3年、外交シンクタンクである日本国際フォーラムでの新時代の地政学の議論に参加する度にこの問題に疑問を抱き続けてきたが、アトランチック・カウンシルのアンダース・アスランド氏による「ワシントン・ポスト」紙への本年3月29日付けの寄稿に問題の鍵を見出した。同氏は元スウェーデン外交官で、1990年代にロシア、ウクライナ、キルギスタンへの経済顧問であった。アスランド氏によれば「西側の財務秘密保持がロシア人による匿名の投資を可能にし、プーチン氏の取り巻きが資産運用を通じてロシア国内での自分達の権力維持をはかるために利用されている」ということだが、私はそうした海外資産が非対称戦争も含めた国防計画の資金にも使われているのではないかと疑念を抱いている。
それを簡単に述べたい。プーチン氏の仲間でも特にシロビキは、秘密警察と巨大国営企業の支配を通じて膨大な富を蓄積している。彼らは民間企業からの強奪、物価や株価の不正操作などによって資金を得ている。これらの資産は西側に移されるが、それは法の支配と投資機密性によって自分達の資産が守られるからである。西側からの度重なる制裁とマグニツキー法にもかかわらず、プーチン氏と彼の仲間は自分達のマネー・ロンダリングのためなら規制の抜け穴を見つけ出す。彼らの投資のほとんどはアメリカとイギリスに向かう。アメリカ財務省によれば2015年で3千億ドルものマネー・ロンダリングが行なわれたが、財務上の秘密保持によってそうした資金への詳細にわたる捜査は妨げられている。イギリスではキャメロン内閣がこうした投資の情報公開に踏み切ろうとした矢先に、EU帰属国民投票によって総辞職となってしまった。メイ内閣はソールズベリ毒薬事件にもかかわらず、この問題への意識は高くない。(つづく)
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