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2018-12-13 00:00
米のインド太平洋戦略「基本法」
鍋嶋 敬三
評論家
米国の中間選挙の嵐が過ぎ去った12月4日に重要法案が上院で可決、6日下院に送られた。「2018年アジア再保証イニシアチブ法案(ARIA)」である。共和、民主両党の有力議員が超党派で提案したこの法案の趣旨は、インド太平洋地域の長期戦略の展望と外交、安全保障、経済政策の方向を示し、2019-2023年の5年間に毎年15億ドルの支出権限を政府に与える。ルールに基づく国際秩序への米国の関与に方向性をつける「基本法」の性格を持つものであり、場当たり的に走るトランプ外交を軌道に乗せ、米国としての意思を世界に示す大きな意味がある。法案を流れるのは中国の南シナ海での不法活動、北朝鮮による核・弾道ミサイル開発、東南アジアの「イスラム国(ISIS)」テロの脅威、政府による人権侵害などへの危機感である。
総論としての「外交戦略」は10項目に及ぶ。同盟関係の強化はもとより、注目されるのは東南アジア諸国連合(ASEAN)、アジア太平洋経済協力会議(APEC)、東アジアサミット(EAS)などの地域機構を通じる多国間協力への支持である。貿易協定も「自由で公正、互恵主義」の条件を付けつつも、2国間だけでなく多国間協定も追求、自由市場のための「パートナー・ネットワークの構築」を掲げた。中国の「一帯一路」戦略を意識して「質の高い透明な社会基盤プロジェクト」の推進もうたっている。安全保障政策では米国がこの地域で「強力な軍事的プレゼンスを維持」し、同盟国や友好国との安全保障関係の強化を求めているのは当然のことである。
日本が同盟関係の第一に取り上げられたのは言うまでもない。日米安保条約の重要性を再確認したのは中国や北朝鮮による脅威の認識が議会でも深まったためである。政府に対して、日米間の外交、経済、安全保障の結び付きの「強化と拡大」を求めており、トランプ政権による対日貿易、防衛協力の要求を強める援軍になるだろう。2国間の同盟にとどまらず、「議会の総意」として日米韓3カ国間のミサイル防衛、情報共有の推進など協力強化を大統領に求めている。韓国の文在寅政権の反日政策による日韓関係のかつてない悪化が、北朝鮮の核・ミサイル開発問題など米国のアジア戦略に悪影響を及ぼす懸念を深めていることを反映したものだ。また日米豪印の4カ国安保対話の重要性も取り上げた。条約上の同盟国ではないインドを「主要な防衛パートナー」と規定し、防衛装備の取引や技術協力のレベルを同盟国並にするものだ。ロシアとも関係の深いインドを米国がインド太平洋戦略の「西の抑え」に組み込もうという意思が強く表れている。
中国に対して地域の秩序を損なう行動に重大な懸念を示したのは当然だが、ルールに基づく国際システムの維持、北朝鮮の非核化(CVID)などへ中国が建設的な役割を果たすよう米政府が働きかけることを議会として求めたのが特徴的である。経済戦略の中では、世界で第5位の経済規模に達したASEANとの間で米国が「包括的経済関与枠組み」の交渉を求めるべきだと大統領に勧告した。中国との間で南シナ海紛争を抱える東南アジア諸国に対する米国の積極的な関与が中国の影響力拡大にブレーキをかけることになるとの読みだろう。法案ではフィリピンやカンボジア、ミャンマーなどの人権政策に厳しい批判を浴びせているが、米国が人権批判などからやや距離を置いてきたきらいがあるASEANもインド太平洋戦略上欠かせない「南の抑え」として浮上してきたのである。
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