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2018-12-25 00:00
防衛政策転換点「新大綱」
鍋嶋 敬三
評論家
安倍晋三内閣が12月18日閣議決定した2019年度以降の「防衛計画大綱」及び「中期防衛力整備計画」(中期防:2019-2023年度)は、基本概念として宇宙など新領域の「多次元統合防衛力」を防衛力強化の最優先事項としたもので、日本の防衛戦略の転換点になる。急速な軍事技術の進展で日本を取り巻く安全保障環境は悪化した。防衛力強化のためには、従来の陸海空の領域に加え、宇宙、サイバー、電磁波などの新領域との組み合わせによる相乗効果で全体の能力を増幅させる領域横断(クロスドメイン)作戦による「真に実効的な防衛力」の構築を目指す。このため、「いずも」型護衛艦の空母化改修、それに搭載するステルス戦闘機F35Bの新規導入やF35Aを合わせた147機体制、地上配備型弾道ミサイル迎撃システム「イージスアショア」部隊創設、早期警戒機E2Dの取得などで防衛能力強化を図る。
日本の安全保障の基軸である日米同盟にとって米国の核抑止力が不可欠であり、同盟の深化がますます必要である。日米同盟を日本のみならず「インド太平洋地域の平和と安全に大きな役割を果たしている」と位置付けたことが特筆される。日米豪の3カ国協力関係の強化、日米印3カ国の連携強化を新たに打ち出したのは、安倍、トランプ両政権下で「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンを日米両国が共有したことを反映した。日米英3カ国が12月22日、初の海軍共同訓練を太平洋で実施したのも同盟国間の政策協調が進んでいることの表れである。中国外務省が大綱の閣議決定に対して即日「強烈な不満と反対」を表明し、「いずも」の空母化について「日本は専守防衛を堅守しなければならない」と主張したが、内政干渉発言である。北朝鮮による核・ミサイル開発とともに、中国が空母の相次ぐ建造など急激に軍備を拡張し、尖閣諸島に対する恒常的な領海侵犯などの主権侵害、南シナ海での人工島建設や軍事化という国際法を無視した攻撃的行動がなければ、アジア太平洋における安全保障環境のここまでの悪化はなかったのである。
中期防は5年間に27兆4700億円とすることが決まり、初年度の2019年度防衛予算は5兆2574億円で過去最大になった。防衛予算は2002年以来10年間減少を続けたが、第2次安倍政権下で7年連続の増加になった。「いずも」の空母化改修について岩屋毅防衛相は「常時、戦闘機を運用するのではない」と語ったが、新大綱に基づく防衛力強化の趣旨に添わない発言ではないか。そもそも空母は対敵攻撃のためにある。空母艦載の戦闘爆撃機は敵を叩くためのものだ。短距離離陸・垂直着陸能力のあるF35Bの常時艦載によって攻撃力・抑止力を高めることに意味がある。本来の目的から目をそらせるようなごまかし発言はご免である。
安全保障政策で現下、最大の懸念は同盟国であり日本が頼みとする米国の政権内の混乱である。穏健路線で筋を通してきたJ.マチス国防長官が辞任を表明、D.トランプ大統領との深い溝が表面化した。安全保障関係の大統領補佐官、重要閣僚が次々と政権を去る。日米安保等の2国間同盟、北大西洋条約機構(NATO)など多国間同盟に対する確固たる信念が最高司令官であるトランプ氏に恐ろしく欠けていることが背景にある。諫言する「忠臣」を追い払い、イエスマンで周辺を固めるトランプ大統領がますます「米国第一」の利己主義、独善的な一国主義に走る恐れが強まる。何であれ「取引」を最大の手法として使ってきたトランプ氏は貿易、経済政策をめぐり中国だけでなく同盟国や友好国とも軋轢を引き起こしてきたが、年明けから外交・安全保障政策に波及するのは避けられそうもない。
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