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2018-12-25 00:00
(連載1)新日鉄判決からみた反日韓国と日本の対応
松川 るい
参議院議員(自由民主党)
まず「徴用工」という言葉の使い方はミスリーディングなので、旧朝鮮半島出身労働者(旧半島労働者)問題と言わせて頂きます。今回の新日鉄裁判の原告4人も強制的に日本に連れてこられたわけではなく、自身で募集に応募してきた方々です。さて、新日鉄住金が敗訴した韓国最高裁判決は、今後の日韓関係を崖っぷちに追いやった罪深い判決です。日韓関係の根本を揺るがせにする判決を、よくもまあ、たった13人の判事がこんなに「気軽に」出せたものだと驚愕しました。尊敬するミラン・クンデラには申し訳ありませんが、私の脳裏に真っ先に浮かんだ言葉は、「存在の耐えられない軽さ」です。今回のハンドリングを間違えると、本当に日韓関係は終わる。しかし、そういう感覚を、韓国司法も韓国政府も(おそらく韓国国民も)持っていない。もしくは、気にしていない。(日本政府の厳しい反応に多少は青ざめているところかも。)もともと、慰安婦問題が再燃するきっかけになった2012年の最高裁判決(個人の請求権は日韓請求権協定により消滅していないと主張)があったので、今回の判決において新日鉄が敗訴するということは予想の範囲でした。日本政府も予想していたと思います。しかし、そうは思っていても、2012年時に以上に飛び越え感満載の荒唐無稽なロジックで、こんなマグニチュードの判決をたった数か月で出したものです。今回の13人の判事の内8人はムンジェイン政権が任命した左翼革新系ですから、ムンジェイン大統領、韓国政府含め、事前に判決結果はわかっていたはず、というかむしろムンジェイン大統領が今回の判決を誘導したも同然です。にも関わらず、日韓関係に与える影響については、ムンジェイン大統領は、きちんと予想し覚悟した上でそうしたのか怪しい、殆ど配慮した気配がない、ということについて、非常に問題を感じます。むしろ、日本の反応が厳しかったことに対して「逆切れ」しているという笑えない状況です。しかも、判決文本文を読みましたが、私も外務省で3年半国際法を担当していましたので多少の知識はあるつもりですが、結論ありきの、国際法(established international law)を理解しているとは思えない、突っ込みどころ満載のトンでも判決です。むしろ、勝手に「ウリ式国際法」を創作したと評価されるべきものでしょう。
今回の最高裁の「理屈」は、日本の統治は、「不法な植民地」支配なので、不法な植民地支配で感じた苦痛に対する賠償請求権は、日韓請求権協定により消滅しない。たとえ、交渉中、韓国側提出の対日要求8項目第5項中に「被徴用韓国人の未収金、補償金およびその他の請求権の返済請求」と明記されており、これを対象に日韓請求権協定第2条が「一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であって、同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする。」と規定していても、というものです。それはなぜか、日韓請求権協定が、日本の支配を不法な植民地支配であるという前提で合意されたものではないから、と。日本の朝鮮半島統治、つまり、日韓併合の合法性については、日韓で立場の違いがあります。日本は、当時の国際法に照らして合法であった、韓国は不法であり当初より無効、というものです。その立場の違いを乗り越えるために、日韓基本条約交渉妥結までには、10年以上の年月がかかり、最後は、その第2条において「1910年8月22日以前に大日本帝国と大韓帝国との間で締結されたすべての条約及び協定は、もはや無効であることが確認される。」と規定するに至ったわけです。「もはや無効」というのは、日本からすれば、「もはや、というからには、それまでは、日韓併合は合法だった」と解することができ、韓国からすれば「日韓併合は最初から不法だったので、それが確認された」と解することができるという、玉虫色の外交的工夫の産物であり、日韓基本条約は、日韓併合の性質についての両国の立場を害さないことを前提にした上で締結したわけです。
今回の新日鉄に関する韓国の最高裁判決は、この日韓基本条約の根本合意を真っ向からひっくり返そうというものです。日韓併合を不法と認めよ、ということです。だから深刻なのです。しかも、この新規な「不法な植民地支配」で感じた苦痛についてはいつでも請求できるという「理屈」に従えば、別に旧朝鮮半島出身労働者に限らず、日本統治下において、何等かの苦痛を感じたことがあれば(たとえば、「警官にオイコラと言われてトラウマになった」とか)、なんでも請求できるという、燎原の火のように際限なく訴訟が広がる可能性のある凄いsweepingな「理屈」です。韓国政府は、「徴用工」を22万人としていますからそれだけでも今回の判決の1人1000万円としてみれば2兆円を超えるわけですが、この判決の理屈に従えば、「徴用工」に限る理屈ではありませんから、22万人に限らず何百万人にも理論的には広がり得るわけです。そして、こんな理屈が通用するというのなら、イギリスのインド統治についても、米国のフィリピン統治についても、例えば、大英英国統治下で官憲からひどい扱いを受けました!という人がいれば、だれでも請求を提起できるということであり、世界にも際限なく訴訟が広がるリスクがあります。そして、今回の判決は、韓国政府自身が2005年に表明した立場にも反しています。時は廬武鉉政権で、ムンジェイン大統領は廬武鉉政権の一員でした。その廬武鉉大統領は、真相究明委員会を設置して、さんざん対日請求権について交渉記録から何から調べまくった挙句、なお、「強制動員被害者の損害賠償請求権」については、「請求権協定を通じて日本から受けた無償3奥ドルに強制動員被害補償問題を解決するための資金などが包括的に勘案された」と結論を出しました。そして、その前提にたって、韓国政府が保障などの後続措置を取ってきました。2007年、2010年と支援を行ってきています。この点、判決の反対意見は正当な判断をしていると思います。日韓請求権協定交渉時に、日本側から個人補償を照会したのに対して、韓国政府が、政府に一括で全部支払ってくれと依頼したため、政府一括方式になったのです。その上で、協定第2条において極めて明確に両国間の個人の個人に対する請求権について「いかなる主張もできない」としています。本来、この4人が訴えるべき相手は、韓国政府で日本企業ではありません。彼らに支払うべきお金は、日本政府が既に韓国政府に支払い済みなのです。その金額は、民間借款合わせれば当時の韓国の国家予算の2.3倍です(無償3億、有償2億、民間借款3憶)。主権国家が外国と交渉をして自国国民の財産や利益に関する事項を国家間条約を通じて一括的に解決する「一括処理協定」は、一般国際法上認められた条約の形式です。韓国国会は、国民の代表たる国会にて、本件日韓請求権協定(日韓基本条約とともに)を批准しており、国内的効力を有してきたのです。したがって、本件判決を受けて何等かの行動するとすれば、それをすべきは韓国政府なのです。
日本政府は、仲裁委員会への付託や国際司法裁判所(ICJ)への提訴も辞さないとしており、毅然とした対応を取っており評価します。ICJについては、韓国は強制管轄権を受諾していないので、応じはしないでしょうが、日本の主張が国際法上正当であるという自信を持っていることは印象付けられるでしょう。ただ、日本政府は、韓国「政府」の対応をまずは見てからということは言っています。いってみれば、韓国国内の一国家機関である司法が日韓請求権協定に反する判決を出した状況なわけですが、韓国政府がたとえば、立法措置で慰謝料を保障するなどして、今回の判決の実際上の効力を日本企業に及ぼさないことを確保するのであれば、本件は、わだかまりを残しながらも一応韓国国内の問題として処理できると思います。判決が出てから2週間、イ・ナギョン総理が判決が出た当日に「判決を尊重して綿密に検討する・・・日韓関係を未来志向で発展させていく」などの発表をして以来、韓国政府の反応が出てこないところを見ると、韓国政府もどうしたものか考えあぐねているのでしょう。これは悪いサインではありません。国際法上分のある話ではないということは韓国政府もわかっていると思います。私は、韓国政府が、自らが巻いた種を自分で刈り取ることを心から願っています。それ以外に、日韓関係を壊滅させない方法はないように思います。韓国政府が本判決を韓国国内で処理する行動を待つ間は、日本は毅然としかし冷静に対応すべきです。自分の経験上、韓国社会というのは、「最初はちょっと悪いかな・・韓国の方が間違ってるのかも・・」と思っていても、日本の反応に逆切れして、そのうち、自分が火をつけた事実をすっかり忘れ、日本に対して上から目線で一方的に批判するようになるということがままあります。今回も、毅然とした対応を取り、反日行為には必ず結果(consequence)が伴う、ペナルティがあるということをわからせることは重要ですが、できる限り冷静に対応し、韓国政府を追い詰めない方が特ではないかと思います(いつまでも待てませんけど)。というのが、今回は、「さすがにどうなのよ、この判決、無理筋では」と本音では思っている専門家は多いですし、保守系の新聞も「韓国の主張は国際的には余り強くない」、「日韓関係に与える影響が心配」といった論調もあるからです。慰安婦問題と違って、国民の関心や共感度も低いです。(つづく)
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