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2019-03-02 00:00
第二次大戦の連合国の大原則は、領土不拡大だったはず
伊藤 洋
山梨大学名誉教授
「2月7日の北方領土返還要求全国大会(政府や民間団体など主催)で採択した大会アピールは、昨年までの『北方四島の返還実現を目指し行動を推し進める』との文言が『北方領土問題の解決を目指し行動を推し進める』に置き換わった。『不法占拠』との言葉もなかった。交渉相手のロシアへの刺激を避けると同時に、『2島返還プラスアルファ(+α)』での決着を探る政府の姿勢をにじませたものだ。しかし、強硬姿勢のロシアとの交渉の先行きは見通せていない」(2019/02/08 毎日新聞)。歯舞群島から吹きつける寒風すさぶ納沙布の岬から、国後島を眼前にする知床の突端から、日の丸の鉢巻きにこぶしを振り上げて望郷の念を訴えていた人々は、一体全体何処へ行ってしまったのだろう。今年は全国数十か所で行われた「北方領土返還要求大会」の会場風景は例年とはうって変わって、故郷を追われた人々の怨嗟の叫びは消えて、日ロ平和友好式典と化してしまったようだ。さぞかし、ロシアの国民は安堵し、我が国への友好感情を醸成したことであろう!?
この「変節?」ぶりに、さすがに何十年の長きにわたって安倍氏と気脈を通じてきた産経新聞ですら「安倍晋三首相の口から、日本固有の領土である北方四島が、ソ連・ロシアによって不法占拠されてきたという歴史の真実と、四島を必ず取り戻すという明確な決意が語られることはなかった。残念というほかない(2019/02/08)」と、こういう社説を上げて怒っていた。「むべなるかな」である。ソ連が武力で「北方4島」を「不法に占領」したのは、歴史の一大汚点である。第二次大戦末期における連合国各国は領土不拡大の原則=「大西洋憲章」を堅持する立場にあった。それなのにルーズベルト米大統領によるソ連参戦要請へのオプションとして南千島4島(北方四島)の領有をスターリンに認めたこと、これこそが今につながる「歴史的汚点」である。
しかし、自分たちで取り決めていた領土不拡充の原則をかなぐり捨てたのはスターリンのソ連だけではない。トルーマンのアメリカも同様であった。それが沖縄・奄美群島など南西の島々の米軍占領であった。沖縄ほか諸島については、アメリカ合衆国は後に施政権のみ返還したとはいうものの、自ら占領を続けるよりはるかに有利な義務や負担を我ら日本人に押し付けて未だに実質的占領を続けていると言って過言ではない。そして、それには日本政府を挙げて積極的に協力支援を惜しまない。いま、問題の辺野古の巨大工事は積もり積もった米国献納の中の取るに足りない程の一例に過ぎない。こう見てくれば、安倍内閣による「北方領土返還要求全国大会」がシュプレヒコールを禁じてまでしずかになったことによって、万が一に北の島々が返還されるとしたら、今度はロシアさまにも手厚くサービスをしかねない。「それは無いよ」というのであれば、あの強面のプーチンが4つの島々を返すわけがないだろう。
こう見てくれば、本心を袖の下にひた隠しに隠してもあの知能指数の高いプーチン大統領には見抜かれてしまうに違いない。安倍氏は、「大西洋宣言」を勝手に放棄して我らの国土を蹂躙しているアメリカとロシアに向かって領土返還要求を、こせこせとやるのではなく、正々堂々、真正面からやることだ。そして、その勇気がないというのなら、この問題はもっと能力のある政治家に譲って政界から去るべきだろう。安倍外交はコストパフォーマンスが悪すぎる。
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