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2007-07-06 00:00
ユネスコ認定の「世界遺産」の意味を問い直す
吉田康彦
大阪経済法科大学客員教授
島根県の石見銀山の遺跡がユネスコの「世界遺産」に登録されることになり、文化庁も地元の関係者も“逆転勝利”に欣喜雀躍した。ユネスコの世界遺産委員会の諮問機関「イコモス」から、条件を十分に満たしていないとして、事前に「登録延期」の勧告を受けていたからだ。石見銀山は、中世から近代にかけて、銀の輸出で世界的に名を馳せていたものの、遺跡の普遍性を裏づける根拠が乏しいというのがその理由だった。そこで、文化庁と地元は詳細なパンフレットを作成し、「イコモス」の委員とユネスコ関係者に猛烈な巻き返しをしたようだ。今回の認定で日本国内のユネスコ認定「世界遺産」は14カ所になった。国内では、まだ10件以上が登録を目指して待機中だという。
水を差すわけではないが、日本人はなぜ「世界遺産」認定をそんなにありがたがるのだろうか。ユネスコという国連機関に認定してもらったというだけで観光客が殺到し、地域振興に役立つからというのは、「遺産」認定の本来の趣旨には反するものだ。旅行代理店に訊くと、海外旅行の客寄せでも「世界遺産めぐり」が人気を博しているという。「世界遺産」紹介のテレビ番組もそれだけで視聴率を稼げる。まさにユネスコさまさまである。日本人は本当に国連のお墨つきが好きなようだ。
そもそもユネスコが「世界遺産」認定を思いついたのは、1960年代にナイル川沿いのアスワン・ハイ・ダム建設で古代エジプトのアブシンベル大神殿が水没する危機に瀕した際に、国際協力で遺跡の保存に成功した経験を生かして、世界各地の人類遺産を保存しようというキャンペーンを展開したことにある。1972年には「世界遺産条約」が採択され、公式認定が始まったが、日本政府も国民も最初は全く無関心で、日本が同条約を批准し、加盟したのは、20年後の1992年だった。
今回の石見銀山登録で、全世界の「世界遺産」は851カ所になったが、認定され、登録されると、環境との調和をはかり、永久保存の義務を負う。観光資本の進出による乱開発は戒める必要がある。自力で保存できる先進国よりも、資金難の途上国の「遺産」を国際協力で保護することが本来の目的である。日本の場合、ユネスコのお墨つきでひと儲けしよう、あるいはそれに便乗しようという不純な動機が見え隠れする。
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