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2019-03-03 00:00
AIの進歩について
鈴木 太郎
学生
「OpenAI」という非営利団体をご存知だろうか。電気自動車メーカー「テスラ」を率いるイーロン・マスクが共同代表を務め、ビジネス向けSNS「リンクトイン」代表のリード・ホフマンやネット決済サービス「ペイパル」代表のピーター・ティールといった名だたる先端企業の経営者らが出資している人工知能(AI)研究の拠点である。最新の報道によれば、この「OpenAI」が、「GPT-2」と呼ばれる超高度なフェイクニュースの生成が可能な言語生成モデル(AI)を開発したという。
先日、ネット上に、口汚くトランプ大統領を罵るオバマ前大統領の動画が登場し、話題を呼んだが、これは「ディープフェイク」という、他人の顔を別の人物の動画に転写することのできるAIを用いた技術であった。しかし、その動画を製作した監督が、その動画がフェイクであると明かすまで、誰もそのことに気づくことはできなかったという。「GPT-2」は悪い使い方をすれば「ディープフェイク」のテキスト版になることができる。つまり、フェイクニュースを作ろうと思い立ち、架空の「ニュース」の書き出しを「GPT-2」に示すだけで、「GPT-2」は、そうした内容に関する「もっともらしい」長文を自動生成してくれるわけである。したがってユニコーンを論証する論文でも「A国がB国に先制攻撃をした」と報ずる詳細なレポートでも、またたくまにAIが作ってくれることになる。
現状、「OpenAI」は、機能を制限したバージョンのみ公開しているし、非公開の完全版でも未完成な部分がまだあるとのことだ。とはいえ、「OpenAI」の見通しどおりであれば、AIがフェイク・ニュースを広めだすのも数年以内だ。そうなれば、我々が目にするあらゆる文章について、それが自動生成されたものか生身の人間が書いたものかを見分けることが、将来的にほぼ不可能になるだろう。政治であれ経済であれ、およそ人間社会が成立し機能しているのは、そこに無限の「判断」が積み重なっているからであるが、こうした「判断」一つひとつの根拠となる情報について、その真贋がもはや見分けがつかないということがどれほど恐ろしいかは改めて指摘するまでもない。こうした事態に対抗するには、今度は、「GPT-2」のようなAIが作成した文書かどうかを検出し適切に対処するAIを開発するしか手はないのかもしれない。
いずれにせよ、人類は、AIという「パンドラの箱」をすでに開けてしまったのであり、もはや「AIは是か非か」という問いは意味をなさない。AIという、それ自体善でも悪でもない中立的な技術と「いかに付き合うか」を模索するしか道はないのであり、そのための技術開発やそれを支援する国を上げての施策や制度設計が不可欠であろう。AI分野における日本の開発水準は、もはや米国に3周遅れ、中国にも2周遅れといわれている。我が国の為政者はこれが意味することを早く理解するべきだろう。
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