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2019-03-18 00:00
ヴェネズエラの反米路線が意味すること
古村 治彦
愛知大学国際問題研究所客員研究員
南米大陸の北に位置するヴェネズエラは、ウーゴ・チャベス前大統領から引き継いだニコラス・マドゥロ現大統領が反米路線、社会主義を前政権に引き続いて採用しています。ヴェネズエラは豊富な石油埋蔵量に恵まれていますが、現在は経済状態が悪く、チャベス政権から続く路線に対する批判が国内にもあります。アメリカの一部、共和党内のネオコン派と民主党内の人道的介入主義派としては、チャベス政権以来、ヴェネズエラの独裁政権を転覆させたい、というのが悲願になっています。自分たちの裏庭である中南米で、アメリカに逆らう、社会主義政権(これを独裁政権とレッテル貼りしています)を打倒したい、ということになります。
ヴェネズエラでは反体制派の指導者であるフアン・グアイド(アメリカのワシントンDCにあるジョージワシントン大学卒業)が暫定大統領である、とアメリカをはじめ先進諸国が認め、分裂状態になっています。これは、アメリカお得意の「民主化(democratization)」「政権、政体の変更(regime change)」であり、「非民主的な政権の打倒(breakdown of nondemocratic regime)」から「民主政治への移行(democratic transition)」です。マドゥロ大統領はアメリカのABCテレビとの単独インタヴューに応じ、その中で、「トランプ大統領を取り巻いて助言をしている中に悪い人間たちがいる」と述べ、4名の名前を挙げました。ジョン・ボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官、エリオット・エイブラムス国務省ヴェネズエラ問題担当特別代表、マイク・ポンぺオ国務長官、マイク・ペンス副大統領です。この4人組はネオコン派です。
マドゥロ大統領は、トランプ大統領を非難するのではなく、トランプ大統領の周りにいるネオコン派が悪いのだ(彼らを周囲に置くという決定はトランプ大統領がしているのですが)、ということで、トランプ大統領と彼を選んだアメリカ国民を責めてはいないという論法です。トランプ大統領は政府機能一時閉鎖、それを引き起こした国境の壁建設予算要求、一般教書演説の遅れての実施、更には国家非常事態宣言、ロシアゲート疑惑と国内では厳しい問題を抱えています。そこで外交に目を向け、そこで得点をすると考えるのは自然です。
しかし、北朝鮮との非核化交渉は進展せず、中国との貿易交渉もうまくいかない(期限を延長しました)、となると、ヴェネズエラ問題は超党派で支持を得やすい問題となります。ボルトンは記者たちの取材を受ける際に、わざとらくしメモパッドに「ヴェネズエラにアメリカ軍5000名を送る」と書いて、それを写真に撮影させました。そうやって脅しをかけています。
ヴェネズエラでマドゥロ大統領を追い落とし、アメリカの息がかかったグアイドを大統領に据えて、親米国にしてしまう、というのは甘美なシナリオに見えるでしょう。しかし、アラブの春の失敗、イラクやアフガニスタンでの状況などを批判して大統領になったトランプ大統領が、このシナリオに乗ってヴェネズエラに介入するのは危険であり、アメリカとヴェネズエラにとって不幸です。
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