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2019-03-22 00:00
米朝会談物別れ後始末
篠田 英朗
東京外国語大学大学院教授
1月に米朝会談が2月末に開催されることが決まった際、「3・1独立運動100周年に備えよ」(2019年2月4日e-論壇「百花斉放」掲載)を書いた。大人の対応を心がけながら、韓国発の「物語」の拡散に警戒せよ、という内容だったが、事なきを得て、3・1が終わったのは、良かった。直前の米朝会談が物別れに終わったことが大きい。米朝会談前の文大統領による「親日清算」発言はあったが、3・1当日の文大統領の発言は、穏便なものにとどまった。反日を基調にして、朝鮮半島の未来を語るという目論見は、米朝会談が不調に終わったところで、軌道修正を強いられていると見てよいだろう。安倍首相陰謀論まで出ているそうだが、日本としては、淡々と朝鮮半島の非核化を願う姿勢を強調すればよい。
昨年6月の米朝会談で、「CVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)」と「体制保証」を「取引(Deal)」するという方向性が示された際、中身がないという酷評が多かったように思う。私の論調程度でも、トランプに好意的なものに見えるくらいだった。米韓合同軍事演習の中止という措置を見て、米国が譲歩し過ぎではないか、とする論者もいた。そもそもアメリカの大統領が北朝鮮の最高指導者と直接会談すること自体の妥当性を問う手続き論的な意見もあった。トランプ流で「取引」交渉が進んでいることは、間違いない。非伝統的なやり方だろう。しかし、制裁解除せずに、北朝鮮の核実験やミサイル実験を止めているのだから、交渉がアメリカ不利に進んでいる、などと言うことはできない。危機の高まりを抑えながら、交渉には臨むという姿勢は、日本にとっても、利益がある。
これまでの安倍外交には安定感がある。国際政治学者の間でも、おおむね好意的な見方が多いと思う。ただし、最近の北方領土交渉は、空回りしている。大局的な視野からの計算の甘さがあった、と指摘せざるをえない事態になっている。3期目の安倍外交に新しい案件での得点を狙う焦りがそこにあるとしたら、心配だ。「戦後日本外交の総決算」は焦って個別事案に精力を注ぐだけでは、達成されない。北朝鮮問題も同じだ。もちろん拉致問題の解決は至上命題だが、北朝鮮への譲歩は禁物だ。「体制保証」それ自体がまだ「取引」中である。大局的な視点から流れを踏まえて見通しを立てることを、忘れないでいただきたい。
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