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2007-07-11 00:00
中国軍事力、不透明性に深まる懸念
鍋嶋敬三
評論家
今年の防衛白書は中国の軍事力の動向に強い警戒感を示すものとなった。軍事力近代化の目標が「台湾問題への対応などを超えるものではないかとの議論が惹起(じゃっき)される」と前方展開能力の構築を目指す中国の動きに神経をとがらせている。中国は「軍事力の近代化を国家の近代化の一環としてとらえている」(白書)。世界の工場といわれる経済発展と政治的影響力の拡大は軍事力強化と足並みをそろえなければならないという論理だ。
中国に対する警戒の背景には19年間も二桁成長を続ける軍事費とともに軍事戦略の不透明さがあることは言うまでもない。中国は2007年度の国防予算を3472億元、対前年比17.8%増と発表した。過去19年間で国防費は16倍の規模になり、日本の防衛費を上回った。しかし、公表された数字は実際の軍事費の一部にすぎず、装備品や研究開発費は含まれていない。米国防総省が議会に送った「中国の軍事力に関する年次報告」では中国の軍事費450億㌦は実際は850億㌦から1250億㌦に達すると推計されている。
防衛白書でもう一つの注目点は中国の海洋活動である。中国の原潜が04年11月に国際法違反となる日本領海内での潜没航行をしたほか、訓練、情報収集活動を繰り返している。06年10月には米空母キティーホークにソン級潜水艦が近接浮上した。このような中国の動向を米国はどう見ているか。年次報告は「世界的な大望を抱いている地域の政治・経済パワーとしての急速な興隆は今日の戦略環境の重要な要素である」と位置付けた。米国の対中国政策は中国を「責任ある利害共有者」として協調姿勢を基本とする一方、「米国と軍事的に競合する最大の潜在力を有する」(QDR=4年ごとの国防計画見直し)として警戒を強めている。
年次報告に関連して国防総省当局者は中国による新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)や原潜搭載弾道ミサイル(SLBM)の開発などに言及して「核兵器の先制攻撃はしない」という中国の核ドクトリンの変化の可能性に注目していることを示唆した。中国が1月にミサイルによる衛星攻撃のテストを実施したことも日本や米国の懸念を強めることになった。懸念の最大の要因は軍事戦略の不透明性にある。急速な軍事力の拡大・強化の背景にある戦略的な意図は何かを明らかにしない中国の指導部は東アジアのみならず世界の安全保障環境に対して不確実性を増大させるばかりである。
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