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2019-04-03 00:00
(連載1)ロシアの対欧州・中東戦略から学ぶべきこと
河村 洋
外交評論家
さる3月のウラジミール・プーチン大統領の「日本とアメリカの同盟関係は平和条約と北方領土問題の解決に向けた交渉の障害になる」という発言は、日本国民にとって、両国の間には大きな認識の相違があることを強烈に思い起こさせた。二国間首脳会議が開催される度に日本の国民とメディアはロシアに対して「北方領土の返還にも前向きで中国に対するカウンターバランスにもなり、極東での二国間経済開発協力にも関与してくれる」と甘い期待を抱いてしまう。確かにプーチン氏はアジアへの転進を模索している。アジア太平洋地域はグローバルなパワー・シフトで重要性を増し、国内的には人口は少なく開発も進んでいないロシア極東地域には海外からの直接投資が必要である。しかしそのことでロシアが日本人の期待に沿うほど気前良くなってくれるわけではない。
日露のやり取りについて語る前に、ロシアの地政学戦略でも特にヨーロッパと中東での基本的な原則を検証する必要がある。というのもクレムリンの思考と行動を見通すうえで、ロシアのフロント・ドア地域は学ぶべき教訓に満ちているからである。他方でアジア太平洋地域はクレムリンにとって戦略的なバック・ドアであり、当地でのロシアの影響力はソ連崩壊後に大幅に低下したために中国政府高官の中にはこの国は彼らにとってジュニア・パートナーだと揶揄する者もいるほどである。現在、東アジアでのロシアの戦略はヨーロッパと中東でのものほど明確ではない。よってロシアが両地域でどのように行動しているかを述べて、この国のグローバル戦略と対日政策を検証したい。
まずヨーロッパについて述べたい。プーチン氏の「ソ連崩壊は前世紀最大の地政学的な災難だ」という有名な発言に見られるように、クレムリンの戦略的優先事項は旧ソ連およびワルシャワ条約諸国でのロシアの力の回復と西側同盟の弱体化である。だからこそロシアはウクライナでクリミアの併合とドンバスでの代理勢力蜂起の支援、コーカサス地域ではジョージア、南オセチア、ナゴルノ・カラバフなどでの民族宗派紛争への介入、そしてベラルーシとの連合国家条約に調印を行なってきた。さらにロシアはあらゆる手段で西側同盟を解体させようとし続けている。ロシアは冷戦後のNATOとEUの東方拡大に危機感を抱き、プーチン大統領はハンガリー、チェコ、スロバキアなどの旧ワルシャワ条約諸国での極右の台頭を支援した。さらに西ヨーロッパでもブレグジット国民投票をはじめ、オランダ、フランス、ドイツ、イタリアの国政選挙にも介入した。こうした工作活動によってヨーロッパ諸国の間および大西洋同盟に亀裂がもたらされた。
こうした観点から、私はプーチン氏が日米の同盟関係を分断すると本気で言ったものと受け止めている。ドナルド・トランプ氏の物議を醸した選挙公約と同様に、プーチン氏が日本に向けたメッセージはポーカー・ゲームではない。実際、セルゲイ・ラブロフ外相をはじめとするロシア政府高官は、日本国民に対して日米同盟とは袂を分かつようにと繰り返し要求した。実際のところクレムリンが日本にアメリカとの同盟を破棄するよう強要はしないだろうが、彼らは両国の安全保障パートナーシップに揺さぶりをかけている。プーチン政権が何年にもわたって介入し続けているヨーロッパでは親露極右政権がEUやNATOから離脱を模索するわけではないが、こうした国々は西側民主主義諸国による多国間機関を不安定化させている。北方領土と平和条約に関する二国間交渉を通じて、日本もプーチン氏による同盟破壊の標的に陥りかねない。日本の政治家は自分達の間で北方領土の二島返還か四島返還かという議論をしているが、そうした議論もヨーロッパとアジアでリベラル民主主義諸国の連帯を断ち切ろうとするプーチン氏の固い意志の前には意味をなさない。(つづく)
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