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2019-04-26 00:00
中東欧諸国の対中接近の危うさ
倉西 雅子
政治学者
メルケル独首相とマクロン仏大統領が牽引役となった独仏がさらなる統合の深化を目指す中、EUレベルでは、度を越した覇権主義問題や技術力の急速な追い上げ問題から、中国に対する警戒感が高まっておりますが、加盟国レベルでは、中東欧諸国が中国との協力強化を図り始めたため、対中政策にばらつきが目立ち始めています。過去においても、イラク戦争やオセチア紛争等の域外で起きた紛争に際してEU加盟国間で対応が分かれ、EUとしての対外政策を一本化できないケースが多々ありました。しかしながら、今般の分裂は、それが長期的にはEUの政治統合や軍事分野での基本方針とも関わるだけに、看過できない危うさがあります。
従来の傾向を見ますと、中東欧諸国の基本的な対外政策のスタンスの特徴は、対ロ警戒にありました。第二次世界大戦以来、長らくソ連邦の頸木に縛られ、1989年に始まる東欧革命を機に凡そ半世紀を経て漸く独立性を取り戻したのですから、ロシアの脅威に対しては常に敏感であるのは当然のことでもあります。このため、ドイツ等の大国加盟国が自国の国益を優先してロシアに寛容な政策を打ち出そうものなら、中東欧諸国の多くは反対に回り、いわば、EUの東部にあって自由主義の砦の役割をも果たしてきたのです。二度とソ連邦の属国にして監獄の如き社会・共産主義体制には戻りたくなかったのでしょう。
ところが、今月12日、中東欧16か国は、一帯一路構想に関連して中国との間で協力の推進を確認する共同声明を採択しています。同構想に関しては、イタリアが協力を表明したことでEU発足時のメンバーの間でも対応に違いが生じていますが、今般、‘後発組’である東欧諸国がブロックとなって中国に接近したことは、EU加盟時には想定し得なかった事態でもあります。中東欧諸国にしてみれば、EUレベルのプロジェクトとして財政支援を受けるには条件等の‘縛り’が強く、資金額でも満足できるレベルにはないEUよりも、細かいことを言わずに“気前の良い”中国の方が余程魅力的に映ったのでしょう。こうした中東欧諸国の親中方向への傾斜は、G5整備の政府調達におけるファウエイに対する姿勢にも見られ、EUは今や、反中か親中かの、中国に対する態度を軸とした分断の危機に見舞われているのです。中東欧諸国の親中政策の根底には、EUには加盟したものの、期待したほどの経済成長を遂げることができない不満があるのでしょうが(もっとも、中東欧諸国の苦境は、生産拠点としてより優位な条件下にある中国の存在が原因…)、安全保障上のリスクを考慮しますと、近い将来、予想を越える事態に頭を抱えることにもなりかねません。何故ならば、ロシアではない国であれば安全というわけではなく、中国もまた、ロシアを凌ぐ軍事的脅威となり得るからです。否、一党独裁体制を維持し、かつ、全体主義的な国民監視体制を敷いている中国の方が、余程ソ連法の体制に近いばかりか、一帯一路構想が実現すれば、ヨーロッパと中国は直結してしまいます。人民解放軍の機動性は増し、短時間でヨーロッパまで到達してしまうのです。13世紀、パドゥ率いるモンゴル軍が中東欧諸国を席巻し得たのもその騎馬隊の機動性の高さにありましたが、同軍の侵攻を受けた地域の住民が無残にも虐殺され、奴隷化された歴史は、現代において繰り返さないとは限らないのです。
ロシアに対する対抗心、並びに、経済支援を目的とした中東欧諸国の一帯一路構想への協力は、自ら危機を招き入れるようなものです。仮に中国が、これらの諸国を政治的に取り込もうとしたり、軍事的な行動に訴えたりした場合、EUが連帯して対抗するとは限らず、また、加盟国が凡そ重なるNATOにあっても、EUと同じ分裂線が加盟国を分かつかもしれません。EUは、目下、英国の離脱問題で揺れておりますが、EU自体がその基盤を切り崩されつつある現状にこそ、関心を寄せるべきではないかと思うのです。
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