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2019-05-28 00:00
(連載1)米中貿易戦争-TPPが招く思わぬ日本国の危機
倉西 雅子
政治学者
一時は合意観測が流れたものの、中国側の翻意によって対立が再燃し、米中貿易戦争に未だに終息の兆しは見えません。長期戦が予測される中、アメリカ政府によって引き上げられた中国製品に対する高関税を嫌い、中国から製造拠点を東南アジア諸国に移す動きが企業間で広がっているそうです。こうした米中貿易戦争に対応したサプライチェーンの再編は、中国市場に対米輸出拠点を設けた日本企業を含む海外企業の対応と思われがちですが、驚くべきことに、当の中国企業もまた、製造拠点を自国から周辺諸国に移しているというのです。
中国の習近平国家主席は、自由や民主主義に対する国民の関心を逸らすが如くに、事あるごとに愛国心の高揚に努めてきました。同政権の愛国路線からしますと、製造拠点を海外に移す自国企業に対して厳しい姿勢で臨みそうなものです。外資系企業の撤退によって雇用状態が悪化する中、自国企業も工場を海外に移転してしまえば、失業者が溢れる事態に陥りかねないからです。
中国は、法律によって共産党が企業各社の経営に口を挟める体制を整えていますので、拠点移転の動きも共産党の消極的な黙認、あるいは、積極的な奨励の下で行われているものと推察されるのです。習政権は、自国企業のサバイバルと国民の雇用不安を天秤にかけた結果、前者を選択したのでしょう。
この選択は、共産党と企業利権が密接に結びついている証でもあるのですが、一般の中国国民にとりましては職場を失うことを意味しますので、同政権、さらには、共産党一党独裁体制に対する不満は高まることでしょう。言い換えますと、米中貿易戦争は中国政府が自国民を犠牲に供したことで、その国家体制をも揺るがしかねないのです(もっとも、暴動や反乱等の発生を防ぐために、政権側は先端的なIT技術を駆使して国民の情報・言論統制を強化している…)。(つづく)
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