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2019-05-29 00:00
同盟強化背景にイラン仲介へ期待
鍋嶋 敬三
評論家
令和最初の国賓として訪日(5月25日~28日)したトランプ米大統領と安倍晋三首相の11回目になる首脳会談(27日)で日米両国は同盟関係の強化を華々しく打ち上げた。日朝首脳会談や日本人拉致問題の解決への支援もトランプ氏は確認した。注目されるのは、トランプ政権によるイラン核合意の破棄や制裁強化で高まる米イラン関係緊張の緩和に向けた日本の仲介役への期待である。首脳会談で安倍首相は「イラン情勢の緊張状態を緩和したい。武力衝突にならないように努力したい」と意欲を表明した。トランプ大統領は「イランに体制変換を求めていない。イランに核放棄を宣言させたいだけだ」と述べ、「取引」に応じるようメッセージを送った。安倍首相は6月中にイラン訪問を検討していると伝えられイラン外務省報道官は28日、首相の訪問を歓迎する意向を明らかにした。
日米首脳会談の直前、日本と友好関係にあるイランのザリフ外相が急遽来日、5月16日に安倍首相や河野太郎外相と会談。イランが表明した核合意の一部停止は合意からの「離脱」ではないとして、合意維持のため日本の協力に期待を示した。これを受けた日米首脳会談では首相のイラン訪問の際、トランプ政権の考え方をイラン最高指導部に伝える「仲介役」としての役割が話し合われたと考えるのが妥当だろう。イラン情勢の緊迫化は中東地域の不安定を激化させ、原油輸入の大半をイランなど中東に依存する日本経済に深刻な打撃をもたらす。中東の大国イランが米国との対立で中露への接近を強めれば、中東のみならず世界のバランス・オブ・パワーにも影響する。日本による「仲介」が奏功するならパワー・ダイナミクスに一石を投じることになる。
日米同盟関係の強化は安倍、トランプ両首脳が5月28日、横須賀基地で海上自衛隊最大のヘリ搭載護衛艦「かが」に乗艦したことに象徴される。安倍首相は「両首脳そろって艦上に立ったことは歴史上初めてで、同盟関係が強固な証だ」と胸を張った。防衛省は「かが」に最新鋭のステルス戦闘機F35を搭載できるよう「空母化」改修する計画だ。大統領もこれに呼応して「日本はF35を105機米国から購入し同盟国最大の規模になる」と安倍首相の防衛力強化に感謝を示した。米国製武器の大量調達という選挙民向けの実績PRも忘れてはいない。両首脳とも「日米同盟は盤石だ」と訪日の成果を強調した。その一方で日米間に横たわる溝も明らかである。北朝鮮が5月9日に発射した短距離弾道ミサイルについて安倍首相が「国連安全保障理事会決議違反だ」と明言したのに対し、トランプ氏は「問題ではない」と否定している。北朝鮮の交渉復帰の呼び水にしようとの思惑もあるが、日本にとっては、中短距離弾道ミサイルは現実の脅威である。
日米間の貿易についても交渉姿勢は全くかみ合わない。焦点の農産物輸入、自動車輸出について日本側は2018年9月の日米共同声明に基づいてパッケージで進める方針で個別の交渉には応じず、関税引き下げも環太平洋経済連携協定(TPP11)以上の譲歩はしない方針だ。トランプ大統領は「TPPは関係ないし、縛られない」と断言、参院選挙後の「8月には非常に良い発表ができる」とも宣言した。首脳会談では安倍首相に花を持たせ参院選までは我慢するが、それ以後は「待てない」との最後通告であろう。彼の得意とする駆け引きだ。安全保障関係が最高の状態だから経済交渉でも大目に見てくれるだろうと「忖度」するのは「甘え」というものだ。がむしゃらに大統領再選を目指すトランプ氏にとって今一番大事なのは同盟関係よりも米国有権者の支持固めである。農業・畜産業、鉄鋼、自動車産業などの政治的圧力は強大で、日増しに強まる。共和、民主両党とも2020年11月の大統領選挙へ疾走をはじめている。安倍内閣は日本の安全を守るため米国との安保関係を強化しつつ、経済上の国益も死守しなければならない。これからこそ日米同盟関係の真価が問われるのである。
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