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2007-07-18 00:00
山本吉宣青山学院大教授の「インフォーマル帝国論」
坂本正弘
日本戦略研究フォーラム副理事長
去る7月10日、山本吉宣教授の『「帝国」の国際政治学ー冷戦後の国際システムとアメリカ』(東信堂、2006年)に第8回「読売・吉野作造賞」が授与された。冷戦後の国際システムについては、米国の国力の卓越性を重視する立場からこれまでは覇権安定論が強かったが、最近のイラク情勢などから、ウォルツの二極安定論、一極不安定論が改めて、注目されている。小生も『パックス・アメリカーナの国際システム』と取り組んできたが、以下を指摘したい。
第一に、山本教授は「帝国」を「覇権国」との関係で定義している。両者とも他国に対して非対称的に大きい力を持っているが、「覇権国」が相手国の対外政策のみを重視するのに対して、「帝国」は相手国の国内体制も重視するとしている。前者が、勢力均衡を重視する現実主義とすれば、後者は軍事力のみならず、価値や民主主義、レジーム変化を重視するネオコンの主張につながる。
第二に、この「帝国」はインフォーマルな体制であるとしている。フォーマルな帝国体制(植民地支配)は主権国家体制と両立しないので、「帝国」は圧倒的優勢を持っていても「普通の大国」として行動(勢力均衡)することがあるとしている。現在、米国はイラクでの困難もあり、レジーム変革などの「帝国」の論理から、勢力均衡を重視する現実主義に変化しつつあるのは、このためだということになる。北朝鮮政策は君子豹変であるが、対中政策も変化するであろうということになる。
第三に、米国は、「帝国」政策の追及を外交内政上の理由で中止せざるを得なくなっても、その卓越した軍事力、世界に展開する軍事基地と兵力投射能力、基軸通貨ドルなどが残り、「帝国」復活への内外環境が回復すれば、「帝国」政策の追及が再び可能となるとしている。反共産主義のヴェトナム戦争での敗退後、現実主義のニクソン・キッシンジャーによる勢力均衡路線への回帰があったが、その後「力と価値」のレーガン外交の復活があった。
以上を勘案して、日米同盟を考察すると、ブッシュ・小泉時代の良好な日米関係は両首脳の個人的信頼関係に支えられたとされるが、ネオコン、ラムスフェルドの「価値と力」の論理の働いたときでもあった。米軍再編、日米戦略協議が集中的に行われ、北朝鮮の核と拉致、台湾問題、中国の軍事力の透明性の欠如などへの日米共通の関心が表明された。「美しい国」にも、「自由と繁栄の弧」の構想にも、価値の主張が見える。しかし、米国の現実主義への転換が強く見られる現在、六者協議では、日米両国の国益の乖離すら懸念される状況である。かつて米国は、時間をかけて、ヴェトナム・シンドロームから立ち直ったが、今回の中東の罠からはどのようにして脱出するのか。そして、その時のアジア情勢、「パックス・アメリカーナ」の未来はどうなっているのかである。
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