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2019-06-11 00:00
天安門事件30周年に考える
荒木 和博
拓殖大学教授・特定失踪者問題調査会代表
さる6月4日は天安門事件30周年でした。あらためてあの日、中国民主化を求めて立ち上がり、「人民解放」軍に殺された多くの若者の御霊安からんことを祈ります。あのとき事件が穏便な形で収束していれば、その後の中国ももう少し変わっていたかも知れません。現実には経済は飛躍的に発展し、一部の人間には富をもたらしたものの、急速に発達した科学技術が民主化や少数民族の弾圧の道具となり、一方ではツイッターもフェイスブックもできず、ウィキペディアも見られず、NHKの国際放送も都合の悪いところでは放送が切れてしまうという、ひずんだ大国ができてしまいました。
そのひずんだ大国のとなりの「ひずんだ小国」では一般国民はインターネットにもつながることができず、NHKはもちろん問題外(金正恩は見ているかも知れませんが)、そして少数民族どころか自分たちの一般国民を弾圧する社会ができてしまっています。あちこちで「北朝鮮はあんなにひどい国なのになぜクーデターとか起きないのですか」という質問を受けます。確かにその通りなのですが、王朝が何度も交代した中国では今の共産党政権に対しても国民は「永遠に続く」とは思っていません。王朝の交代というのは日本における徳川幕府の成立とか明治維新のようなこととは全く意味が異なり、国が丸ごと入れ替わるようなものです。しかし北朝鮮にはそれがない。
李朝というのは500年間、明治維新の薩長のような内部での対抗勢力を持たずに続いた政権でした。19世紀後半は色々な動きはありましたが、結局日清戦争での日本の勝利を契機に李朝の延長線上の大韓帝国が成立し、その後は日韓併合、日本の敗戦による連合国の占領と続きます。そして北側はソ連が占領し、スターリンの指名した金成柱(金日成)とその息子、孫が指導者を続けています。南は何度も政権交代しましたが北は自力で政権を代えたことがないのです。もちろん様々な要因はあるのですが、私はこの、国民に「自力で政権を代える」というイメージがないことが、体制が続いている大きな要因の一つでもあると思っています。
さて、「ひずんだ大国」ではあれだけ磐石な基盤のように見えても、権力者は30年前の事件の影に脅えています。おそらく足下は決して安泰ではないのでしょう。では「ひずんだ小国」はどうなのか。平壌の金日成広場で30年前の天安門広場が再現されることはなくても、変わるときはもっとドラスチックに変わるはずです。そのきっかけを日本が作ることはできないでしょうか。天安門以後国際的に追い詰められた中国共産党に日本が助け船を出してしまった愚を繰り返さないためにも。
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