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2019-07-08 00:00
日本の対韓外交は「膺懲」に傾斜するなかれ
古村 治彦
愛知大学国際問題研究所客員研究員
さる6月30日、アメリカのドナルド・トランプ大統領が朝鮮半島の非武装地帯を訪問しました。このことによりトランプ氏は、北朝鮮領域内に入った初めてのアメリカ大統領になりました。「ツイッターの記事を読んで驚いた」と言いながら、北朝鮮の金正恩委員長もこの非武装地帯に姿を見せたことで、本当の意味で世界の注目を集めました。大阪で開催され、安倍晋三首相が議長役を務めたG20のことなどどこかに吹き飛んでしまいました。
トランプ大統領は、米中貿易戦争の深刻化を防ぐために、とりあえずこれ以上の攻撃と報復を取り止めようということで中国の習近平国家主席と合意をし、米朝関係ではとりあえず良い関係は続いているという姿を見せるために、北朝鮮の金正恩委員長と良好な関係をアピールしようということで合意をしていたということになります。部下たちがやり過ぎてしまったことを引き戻す、状況をこれ以上悪化させないということを、行ったものと思います。そのために手足となったのは、ホワイトハウスの中、ジャレッド・クシュナーとイヴァンカ・トランプ両上級補佐官だったと思います。思い返してみれば、ジャレッド・クシュナーがまずヘンリー・キッシンジャーと関係を結び、そこからトランプ大統領に紹介し、大統領選挙期間中にトランプ候補(当時)とキッシンジャーが極秘に会談を持ちました。
そう考えると、今回はホワイトハウスのこのラインが働いて、キッシンジャーの助言を受けながら、状況を悪化させないということが実現したものと思います。目を日本に転じれば、日本政府は、安倍晋三首相が韓国に経済制裁を科す、そして文在寅大統領と少しの時間でも話をするということを行いませんでした。徴用工問題での報復だそうですが、相手との交渉を行わず、すぐに懲罰的な処置を行うというのは、戦前の日本と何ら変わりません。近衛文麿首相は日中戦争不拡大を希望しながら、周囲に引きずられ、最後には「暴戻支那を膺懲す(暴支膺懲)」とばかりに過酷な和平条件提案を行い(とても和平案とは言えない内容)、中華民国政府側の態度を硬化させましたし、「爾後国民政府を対手にせず」という声明まで出しました。
この時の近衛首相の誤った判断が最終的に日本を亡国に導きました。安倍首相の行動様式はこの時の近衛首相を彷彿とさせないでもありません。そうした中、「世界が注目する大阪でのG20」「議長国日本の存在感」「議長役である安倍首相のかじ取り」などという国内向け報道から脱し、目を外に転じれば、日本は、国際政治を舞台や映画にたとえてみれば、脇役、端役であり、中心的な役割を演じるべき俳優ではないと思われかねません。日本政府は、歴史を顧み、適切な役割を自覚して政策を実行していくべきではないでしょうか。
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