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2007-07-23 00:00
米軍のイラク駐留継続を支援すべき
角田勝彦
団体役員・元大使
ニューズウィーク誌の最新の世論調査によると、ブッシュ政権のイラク政策を支持しない米国民の割合は68%、駐留米軍の削減を来春まで待つべきでないと答えた者は54%にのぼる(日本版7月25日号報道)。高まる早期撤退論に、1月打ち出した2万人余の兵力のイラクへの増派を5月末やっと完了した(イラク駐留米軍は20戦闘旅団、15万人規模に達した)ばかりのブッシュ政権は、窮地に追いこまれつつある。下院では7月12日、駐留米軍の戦闘部隊のほとんどを来年4月1日までに撤退させるという法案が民主党などの賛成多数で可決された(ただし大統領の拒否権行使を覆せる多数ではない)。上院でも、結局必要な60票が得られず事実上の廃案になったが、民主党は、イラク駐留米軍に対して120日以内に撤退を始めるよう義務づける法案を提出し、7月17日より異例の徹夜審議を強行した。4人の共和党議員が、本法案の賛成に回っている。
ブッシュ政権は、7月12日に、イラク政府が達成すべき政治、治安、経済分野などの課題18項目について、バグダッドの治安回復など軍事分野を中心とする8項目については「満足できる」と評価した中間報告を公表し、イラク駐留米軍のペトレイアス司令官が、増派による治安回復の状況や今後の兵力レベルについて大統領に報告する9月までは、事態を見守るよう要請しているが、2003年3月のイラク開戦以降07年7月までで3,600人を突破し、なお増え続けている米兵の死者数に、米議会の不満は高まっている。まず不可能と思われる劇的な改善の兆しでも見られない限り、9月の報告後、共和党内にも、強気のブッシュ政権に政策変更を求める動きが強まろう。
駐留米軍の早期撤退は、イラクの混乱を増大させること明らかである。上記ニューズウィーク誌世論調査によると、65%の人は、米軍撤退後、イラクが自力で治安を維持できるとは思わないと考えている。それは米国民のみの認識ではない。潘基文国連事務総長は7月16日、国連本部で記者会見し、イラク駐留米軍について「突然の撤退は、さらなる情勢悪化につながる」と述べ、駐留継続を事実上支持する考えを示した。
問題は、米国民の多数が「それでもしょうがない」と感じつつあることである。米国にはもともと(帝国になることを求めない)孤立主義の伝統があるが、現実的国益はもちろん、(最近のネオコンを一例とする)民主主義と普遍的価値の普及を求める理想主義的傾向からも国際主義に向かってきた。ポスト冷戦の高揚の時期、平和強制の実験に見られたように、とくにそれは顕著だった。しかしイラクについては、フセインを倒して石油を含む現実的国益がほぼ満たされた。昨年9月の「テロとの戦いに関する国家戦略」を見ても、イラクの治安回復がなければ、国際テロと戦えないというわけではなさそうである。そこで、イラク及び中東における民主主義の普及という理想が、それに必要なコストと冷厳に比較されるようになったのである。1993年ソマリアの米軍撤退の先例もある。「そうしたいのなら、勝手に苦しませろ」ということである。
R.ギルピンは覇権安定論で、国際社会の平和といった国際公共財を供給し得る覇権国の存在は常に求められているが、コスト面から覇権国の優位は必然的に揺らぐと指摘した。米国のイラクに関する政策変更は、坂本正弘氏が本欄の「山本吉宣青山学院大教授の『インフォーマル帝国論』」(7月18日付け投稿356号)で説かれたように、「パックス・アメリカーナ」の未来などに影響するところ大であろう。米国に代わる覇権国乃至レジームは現在存在せず、国際社会の武力介入への姿勢は臆病になることが予想される。国際公共財供給の観点からも米軍の急激な撤退は望ましくないのが、世界の現実である。米国民には負担をかけるが、せめて秩序ある撤退が実現できるような駐留継続を支援すべきであろう。
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