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2019-07-15 00:00
イランにまで手を出すトランプの無謀
伊藤 洋
山梨大学名誉教授
朝日新聞に、トーマス・フリードマン氏の評論「コラムニストの目 トランプ外交 イランと中国二正面作戦の狂気」と題してニューヨークタイムス紙記事(2019/06/26)からの翻訳が掲載されていた。その冒頭部分「トランプ大統領は、世界最古の二大文明、ペルシャと中国の態度を同時に変えようという壮大な闘いに米国を引き込んだ。狂気のさたなのは、両国を同時にということではない。はっきりとした目標も、同盟国も、強力で統制の取れた安全保障チームもなく、相矛盾するトランプ氏の外交目標を調和させる計画もないまま、これほど大きな試みに乗り出すことだ。」なるほどそういう見方をするのか!とこの記者の慧眼ぶりに大いに度肝をぬかれたのは言うまでもない。
トランプ氏の二つの「宣戦布告」、その一つは中国との戦争だが、これは「人工知能AIと電気自動車」に象徴される「新しい石油」を支配することでパックスアメリカーナを越える覇権国家中国の登場を許すか否かの闘いであろうが、トランプ氏にかかると単なる貿易戦争に矮小化されている。片やイランとの闘争は、7世紀以来アラブ社会で争われてきたスンニー派とシーア派のイスラーム正当性の決着というムハンマドの正当後継を争う争いであり、そのためにこそ核が主題なのだが、トランプ氏にかかると核合意から一方的に離脱して石油問題に矮小化され、今やシェールガスをもって世界一の産油国に返り咲いたアメリカの利権確保のレベルとなっている。
これを要するに、世界史の流れの中でトランプ外交は微妙な歴史的ずれを醸し出しているのである。そして、そのお先棒を担ぐ安倍外交のちぐはぐもまたそこからやって来る。特に、イラン問題ではもはや一触即発の状況に立ち至っている。トランプ政権内に巣食っている好戦派による策動は、中東での大規模戦争に発展するやも知れぬ。それこそ7世紀「アリーの悲劇」以来の溜まりにたまったエネルギーの解放は、それら好戦家の意図をはるかに超えたレベルのものとなるのではないだろうか?
集団的自衛権を法制化した日本は、いまこのアラブ世界における歴史的歪みエネルギーの解放と言う想定外の中東情勢の真っただ中にいる。ここを通過する原油は日本の「生命線」だと言ったのは他ならぬ安倍総理大臣だ。彼は今の事態をどう認識しているのだろうか? また、これら喫緊にして重要な問題について参院選全立候補者の見解を聞いてみたい。また、パックスアメリカーナの衰退と中国の台頭という覇権交替の中で、この国の有史以来巨大隣国に悩まされてきた問題について、どういう戦略が有るや無しや、これについても本気の議論が必要だ。が、そんな難問にこたえられる候補者がはたして含まれているのか否か? これもまた重要な疑問だ。
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