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2019-07-23 00:00
(連載1)ポピュリズムがもたらす米国内政治の捻じれ構造
古村 治彦
愛知大学国際問題研究所客員研究員
米国の民主党内部は今、分裂状態にあります。内部闘争と言ってよいでしょう。それが激化しています。その理由は来年の選挙です。来年はアメリカ大統領選挙が実施され、そちらに注目が集まっていますが、同時に連邦上院議員の一部、州知事の一部、そして連邦下院議員全員の選挙も実施されます。連邦上院議員は6年に1度、州知事は4年に1度、選挙が実施されます。連邦下院議員は2年に1度選挙が実施されます。これはヴェテランでもそうですが、連邦下院議員は選挙がすぐにやってくるので、資金的、精神的、肉体的にかなりの消耗を強いられます。まず自分の所属する党の予備選挙で勝ち、さらに本選挙で勝たねばなりません。長期間に連続で当選しているような人には挑戦者は出にくいですが、それでも、多選批判が選挙区内にあるような場合には、盤石だと思われていた人もあっさり予備選挙で負けたり、本選挙で負けてしまったりということが起きます。
アレクサンドリア・オカシオ=コルテス(AOC)は、2016年のアメリカ大統領選挙で、バーニー・サンダース連邦上院議員(ヴァーモント州選出、無所属)の選挙運動に参加し、それが機縁となって、2018年の中間選挙で、連邦下院議員ニューヨーク第14選挙区から選挙に挑戦することになりました。そして、2018年6月の民主党の予備選挙では、10期連続当選、次はいよいよ連邦下院議長だと言われていたジョセフ・クローリーを大差で破り、民主党の候補者となり、11月の本選挙でも大差をつけて当選、という大番狂わせを演じました。選挙資金は数百万円、クローリーの選挙資金はウォール街の金融機関などからの献金数億円でしたが、かえってこのことが選挙区の有権者の怒りを買ってしまったという結果になりました。
AOCの選挙戦を支えたのは、「ジャスティス・デモクラッツ(Justice Democrats)」という組織です。この組織は2016年の米大統領選挙に出馬したバーニー・サンダースの考えを拡大しようという目的で同年に設立された組織で、自分たちの考えに賛成している人々を選挙に立候補させて当選を目指すという活動を行っています。2018年の中間選挙では、AOCの他、アリゾナ州第3選挙区のラウル・グリジャルヴァといった人々がジャスティス・デモクラッツの支援を受けて連邦下院議員に当選しました。この連邦下院議員たちは「進歩派」と呼ばれていますが、日本風に言えば「バーニー・サンダース派」ということになります。この議員たちはジャスティス・デモクラッツの考え、もっと言えばバーニー・サンダースの考えである国民皆保険「メディケア・フォ・オール(Medicare for All)」や最低時給15ドル、学費ローンの帳消し、公立大学の無償化、グリーン・ニューディールの実現のために活動を行っています。
このジャスティス・デモクラッツ、進歩主義派の議員たちと争っているのが民主党内部の主流派です。そして、現職の連邦下院議員たちです。上でも書きましたが、連邦下院議員は選挙ばかりで議席を守ることは大変なことです。お金集めも大変、いつも挑戦者の影におびえ、有権者の風向き一つで今までの努力が水の泡ということになります。それに対して、ジャスティス・デモクラッツは各選挙区で自分たちの考えに賛成する人たちを民主党の予備選挙に立候補させてきます。現職議員たちは、いつ自分が無名の新人AOCに敗れたジョセフ・クローリーみたいになるか、次の連邦下院議長と呼ばれるところまで10期連続当選という実績を積み重ねたクローリーがあっさり負けてしまった様子を見ていますから、ジャスティス・デモクラッツと進歩主義派に警戒感を持っています。(つづく)
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