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2019-08-06 00:00
(連載2)リベラル国際秩序の自壊を防げ
河村 洋
外交評論家
米国の保守派の中には自然権思想すら軽視し、アングロ・サクソン主導によるプロテスタント国家であるべきと、あたかも宗教国家を標榜する者すらいるのだ。キリスト教国家観は、ヨーロッパ封建社会からの解放が建国のアイデンティティだったアメリカには本来存在しない中世的概念のはずである。もともと自国になかった幻想的なイデオロギーを「保守」と標榜することは自家撞着であり、進歩的な米国の自由主義社会を足踏みさせ、あるいは後退させるだろう。興味深いことに、アメリカのこのようなナショナリスト保守派は、ウラジーミル・プーチン氏のような反欧米、反自由主義、キリスト教的価値観を標榜する本来、西側自由民主主義と相容れない思想と共鳴する面もあるのだ。
そうしたなか、これまで米国政界を導いてきた中道右派は、今や反リベラル民主主義やオルタナ右翼に侵食されつつあるといっても過言ではない。これは保守の退化と言わざるを得ない。では、左翼、進歩派が米国の自由民主主義を擁護しているのだろうか。ケーガン氏はそうは見ていない。保守派が変質する一方で、進歩派は自国のリベラル資本主義と帝国主義を攻撃するばかりで、国外の反米的な独裁者への対抗には関心が向いていない、と論じている。
こうした思想は、かつては「極左」と呼ばれ、冷戦期には反共リベラルからも嫌われその影響力は限定的であった。ところが、今日の左派は国外の権威主義への対抗に力点をおいておらず、ますます左側に傾斜しつつある。このように自由民主主義は、国内的にも、右派・左派の双方で退化が生じているというのがケーガン氏の見立てである。こうしたケーガン氏の分析から浮かび上がってくるものは何か。それはとりもなおさず、現在の米国を始めとするリベラル諸国が、国際政治をもっぱらパワーバランスだけで捉えるあまり、「専制主義国家に対抗する戦略」に力が入らず、既存の国際秩序を自ら不安定化させつつあるのではないかということである。
久しくリベラルな国際秩序の庇護者であったアメリカが国際的なプレゼンスを低下させつつある中、主要な専制主義国家は新たな秩序の形成に邁進している。このような状態は戦後から今に至るまで潜在的には変わらない構図であったが、それでもかつては、アメリカが日欧などと手を携えて国際秩序を調整してきたために、専制国家のあからさまな挑戦は退けられてきた。権威主義国家が既存の国際秩序を有名無実化する前に、アメリカそして世界の自由民主主義諸国は一日も早く、自国における政治的混乱の収拾を図り、健全かつ安定した国際秩序の再建に回帰することを望まずにはいられない。(おわり)
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