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2019-08-23 00:00
「One Issue政治選択」という危険
伊藤 洋
山梨大学名誉教授
このたびの参議院選で「NHKから国民を守る党」、略して「N国党」が議席を確保した。ネットなどの報道によれば、この党派(?)の代表は今回の選挙結果を受けて「ここまで大きくなるとは思わなかった。(NHKを)ぶっ壊した後は危険なので党を潰す」と語った。また、同じネットメディアで別の機会に「早く国会議員を辞めたい」、「年内は何もしない」などとも語っているという。
こうした報道に接して、筆者のなかで、ある悲しい記憶がよみがえった。小学校5年生時分の話である。戦後民主主義の象徴として、クラス委員長(敗戦以前には「級長」と呼んでいた)は、先生の指名ではなくクラスの児童全員による自由「選挙」で選ぶことになった。学年のはじめであったと思うが、その時行われた選挙で「ケンちゃん」という児童が多数決で選ばれることになった。その開票結果を見て、女の先生が泣きだした。児童たちが即座に「マズイ」と思ったのは言うまでもない。「ケンちゃん」はクラスのお客様で5年生になっても平仮名の判読にも不自由していた。その彼を委員長に選んだとき、どういう空気が教室に流れていたのか今はもう思い出せないが、ただ、それが実に問題であることは、彼を率先して選んだ男子たちにはよく分かっていた。職員室に戻ってしまわれた先生に謝りに行かされたのは筆者だった。
「N国党」の主張するように、テレビを設置すると同時に義務的にNHKと受信契約を結ばされ、自動的に受信料負担が発生する現状は不合理であるから、NHK放送自体はスクランブル化して、NHK放送を視聴したい人は、任意にNHKと受信契約を結ぶようにすべきだ、というのは、それなりの意見としてあってもよい。だからといって純粋にこのワンポイントだけで国会に議席を獲得したことからもたらされうる政治的不安定性は実に問題である。国会で議員が議論すべき問題は実に多様であってNHKとの契約問題は文字通りのワンポイントだ。「N国党」を選んだ有権者が有しているこれ以外のさまざま多様な意見は何も反映されないにも拘らず、選ばれた議員はいかなる政治的主題に対してもフリーハンドを有していることになる。
現に、「N国党」の立花孝志代表は「自民党がNHKのスクランブル化に賛成するのであれば改憲に賛成する」とか、かねて問題の丸山穂高議員をはじめ札付きの議員たちを仲間に入れようとしてている。こうした動きは、こうした「One Issue」の政党を選んだ以上、有り得ないことではない。所詮、政治は国民のレベルによってその質が定まる。この国の民のレベルがまだ成育途上なのか、もうここで成長停止なのか。いずれにせよ、我が小学校5年生時代レベルの民主主義に陥ってしまっているのかとも言いたくなるような状況であることは間違いなさそうである。しかも、あの時と違って、現実政治には、謝りに行く「先生」も「職員室」も存在しないのである。
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