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2007-07-30 00:00
日米間の歪みに北の影あり
田久保忠衛
杏林大学客員教授
日本はロシア、朝鮮半島、中国などのユーラシア大陸との間にいくつもの問題点をかかえている。その支えになっているのが日米同盟だが、日米関係にも危険が迫っている。北朝鮮の核計画と拉致をめぐり日米間に対応の差が目立ち始めた。
7月18日から20日までの3日間にわたって北京で開かれた六カ国の首席代表会議はとくに目立った成果を上げることなく閉会した。米首席代表のヒル国務次官補はしきりに「今回の会合で勢いをつけることができた」と強調しているが、その内容は一体何であろうか。今回の会合の前からヒル次官補は「初期段階の措置」に次ぐ「次の段階」を「年内に達成したい」と北の金桂官外務次官に繰り返し要請したが、北側は何らの言質も米側に与えなかった。にもかかわらず、ヒル次官補は「この時点で期限を切る必要はない」などと自己弁護に努めている。二月の合意では「次の段階ですべての核計画」についての「完全な申告」と「既存の核施設の無能力」を実施する約束になっていたのではないか。このまま放置しておけば、北に対する日米両国の温度差は開く一方だ。
最大の関心事は米国が「テロ支援国家指定」の解除をするかどうかである。解除に踏み切った場合に国際金融機関は対北融資を開始する。拉致問題で北に対する制裁を強めてきた日本と米国の間に亀裂が走るだろう。拉致問題に取り組んできた安倍首相、中川政調会長ら自民党有力議員ならびに野党の政治家たちは政治的な危機にさらされる。とくに注目しなければならないのは、拉致に熱心な政治家にほぼ共通するのは親米的傾向である。日米関係が悪化した場合には最も強い衝撃を受けるのはこれらの政治家である。
いわゆる従軍慰安婦に関するホンダ決議案はさきに米下院外交委員会で可決され、本会議に回されるかどうかの局面を迎えた。ホンダ下院議員の決議案にある「軍の強制」があったかどうかの単純な問題だとと日本側は主張し、米側は当時の公娼制度自体を批判するというスレ違い現象を示している。ホンダ決議案を「正しい」と見る向きは概して言って米国の諸政策に距離を置いてきた人々、「正しくない」と主張するグループは親米的と称してもさほど見当違いではなかろう。
日米間にトラブルが生じた場合には、米国の知日派と日本の知米派が国内でそれぞれ解決の道をはかるという従来のシステムは効かなくなってきた。米政府部内の日本専門家はほとんどいなくなったし、ホンダ決議案問題で日本に理解を示したのはダニエル・イノウエ上院議員ただ一人だった。さらに、日米関係強化に長年にわたって少なからぬ役割を演じてきたアーミテージ元国務副長官が「CIA工作員実名漏えい事件」に関連して共和党内の地位が低下してしまった。自身が漏えいしたにもかかわらず沈黙を続けたため、チェイニー副大統領のリビー前首席補佐官が偽証罪に問われて「犠牲者」になってしまったことから、アーミテージ氏に非難が集中している。日米関係は大きな危機に直面していると思う。
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