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2019-09-12 00:00
(連載2)売られた喧嘩は買わなくてはならない
袴田 茂樹
日本国際フォーラム評議員
またプーチンは、昨年9月安倍首相、習近平主席その他の国家元首も参加したウラジオストクでの「東方経済フォーラム」で、「一切の条件なしで(=領土問題と関係なく)」今年末までに平和条約を締結しよう、と安倍首相に提案した。このプーチン提案に対して首相は苦笑で応じただけだったが、日本政府は領土交渉を抜きにした平和条約交渉は有り得ないとのしっかりとした反論を出さず、逆に「プーチンの平和条約への強い意欲の表れ」とあきれた評価をした。もちろん、侮辱されたことを取り繕い、国民に失望感を与えないためのカムフラージュ発言である。ペスコフ大統領報道官も今年3月に「日本と交渉しているのは、島を引き渡すか否かではなく(それとは関係なく)平和条約締結に関する合意だ。
この交渉はたいへん複雑で何年もかかる可能性がある」と述べた。日露領土交渉に深く関わったロシアのクナーゼ元外務次官も、「では平和条約交渉で何を話すのか。ソ連時代でもこれほど侮辱的な対日対応はなかった」と述べたほどだ。2016年11月にロシアのマトビエンコ上院議長が訪日した時、彼女は「4島のロシアの主権に疑いはなく、国際文書にも定められている。ロシアの立場は不変で、主権は放棄しない」と、やはりプーチンに従って、歴史を歪曲して勝手放題を述べた。昨年7月に伊達忠一参議院議長(上院議長と同格)がマトビエンコに招かれて訪露し、彼女の司会の下でわが国の参議院議長としては初めて上院での演説の機会を得た。この時は、ロシア側の間違った歴史認識を正す絶好の機会であったが、彼はただ両国の友好関係や交流の強化について述べただけで、マトビエンコのような自国の立場の説明は何もなかった。
最近、プーチン大統領は日米安保条約からの日本の脱退が平和条約締結の条件だとか、その日米安保条約に関しても「56年宣言が署名された時は存在しなかったが、今は存在している」といった日本が受け入れる筈のない強硬発言、あるいは初歩的に間違った認識を公然と述べている。ちなみに、1951年9月8日、日本はサンフランシスコ平和条約に調印した同じ日に米国との間で日米安全保障条約に署名し、米国との防衛面での同盟関係を確立した(翌年4月発効、1960年改定)。これらに対しても、日本政府は客観的事実を国内・国際発信せず沈黙している。昨年11月のシンガポールでの日露首脳会談では、多くのメディアや政治家が、東京宣言の立場を日本が放棄した、つまり根本的な対露政策の変更と理解した。これに対し政府は「基本方針は変わらない」とも国会や記者会見で述べているが、整合性のある説明やその国内・国際発信はなされていない。
日本の対露外交の最大の問題点は、このようなプーチン、ラブロフ、マトビエンコなどロシア首脳の発言が歴史の乱暴な歪曲であると解るような客観的な情報を、国内的にも国際的にもきちんと発信していないことである。筆者は前述の2012年のプーチン発言の直後に、ロシア語で公表されたプーチン発言のロシア語原文と日本での報道の違いを指摘し、これまでそれを幾度も問題にして来た。今日の北方領土交渉の行き詰まりは、残念なことに筆者の予想通りの成り行きだが、これは日本の政府やメディア、専門家たちがきちんとした分析と情報発信をしていない結果でもある。このことを考えると、今後の対露政策の在り方は、自ずと明らかになるだろう。(おわり)
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