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2019-10-03 00:00
米イラン関係打開のカギとなるイエメン情勢
篠田 英朗
東京外国語大学大学院教授
さる9月24日に安倍首相とイランのロウハニ大統領との会談が開催された。わたしはこの会談について、日本外交が、真に世界平和への貢献を志向しているのか、それとも身の回りの低次元な争いにしか関心を持たないのか、という点を明らかにしうるという意味で、日韓対立克服の試金石にもなると考えている。他方で、この会談自体が、米・イラン関係打開に向けた何らかの突破口となるといえるかかどうか。本当はそこが問題だ。「イランさん、もう少しアメリカの言うことを聞いてくれませんか?」と日本が誘っても、イランが乗ってくるはずはない。制裁を受け経済的に苦しいとしても、イランの政治指導者層にとってはそれは大した問題ではない。イランへの制裁解除が交渉のレバレッジになると考えるには無理がある。
では、イランにとって重要な関心事は何であろうか。それはおそらくイエメンである。現在、アメリカを後ろ盾とするサウジアラビア主導の連合軍がイエメン国内の反体制派であるフーシー派撃退のためにイエメンに軍事介入しており、それに対抗し、イランを後ろ盾とするフーシー派が、サウジアラビアに攻撃をし続けている。イエメンのフーシー派については、日本ではサウジアラビアの石油施設攻撃の主体であったかどうかという文脈でしか言及されないが、これでは極めて視野が狭い。ポンペオ米国務長官はイランを糾弾したが、イランのザリフ外相はイエメン窮状を示す写真を公開してそれに対抗した。イエメン情勢に目を瞑るアメリカが、フーシー派によるサウジアラビアへの攻撃でイランを批判するのは茶番だ、という指摘である。
実は、民主党主導のアメリカ議会は、イエメン情勢を憂い、サウジアラビアに対する武器供与をトランプ政権にやめさせる決議を出している。トランプ大統領はこれに拒否権を発動しサウジアラビア支援を続けているので、イランの主張には説得力がある。もちろんイランは、人道的な理由だけでイエメンを見ているわけではない。イエメンでは、すでに駆逐し難い勢力に成長したフーシー派が、事実上の停戦提案をサウジアラビアに対して出している。「フーシー派の存在の認知こそがサウジアラビアを含めた湾岸諸国の安全を保障する措置である。イランに圧力をかけても何も進まないぞ」というメッセージは、関係諸国にとって強力な示唆となっている。イエメンにおけるフーシー派の存在を認める国際社会の流れは、イランに対する大きなレバレッジになるのだ。
もちろんムハンマド・ビン・サルマン皇太子が主導する形で引き起こされたサウジアラビア主導のイエメンへの軍事介入は、簡単には終わらないだろう。しかし、サルマン皇太子が、フーシー派を完全駆逐できると今でも信じているとも思えない。日本がサルマン皇太子を説得できるはずもないが、だからといって全くイラン問題に貢献できないというわけではない。イエメン情勢において中立であるという点は、日本が持つ重要なステータスであり、日本政府はこれをよく認識するべきだ。事態を打開するためには、安倍首相にとって、イエメン和平の国際会議を開き米国とイランが参加する形をつくるしか手はないだろう。もともとサウジアラビアをサポートするアメリカがイエメン情勢を度外視してイランと交渉して成果を出すなど、想像し難い。日本の仲介で、米・イラン関係改善への活路を切り開くことができれば、日本の世界平和への貢献が本気であるとわかるはずだ。
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