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2019-10-23 00:00
(連載2)次期首相候補ですら不充分な憲法への理解
篠田 英朗
東京外国語大学大学院教授
他方で、自民党改正案自体も、様々な面から様々な批判を浴びている。石破氏の主張する「国際的な常識」の観点から自民党改正案の特徴を一つ指摘するならば、「国」の概念の斬新な導入である。自民党憲法改正案の「9条の3」は、「国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全」すると定める。「国」という存在が「国民」と切り離され、全く別の存在として「国民」と「協力」して自衛権を行使するのだ。主権者である「国民」と切り離され別個の存在として並置される「国」という文言は、いったい誰を指すのか。
自民党憲法改正案は、「国」が誰なのかについて明確には説明していない。自民党改正案を支持する石破氏も、「国民」と併存関係にある「国」こそが「三権以前の自然権的権利である自衛権」を行使すると、根拠を示さずに主張する。なお、現行の日本国憲法には、同案に類する概念としての「国」は存在していない。つまり、石破氏の主張は、現行の日本国憲法の概念枠組みを根底からひっくり返す革命的な主張であるにもかかわらず、根拠が不明なのである。
おそらく、石破氏は日本の憲法学通説が依拠している時代遅れの19世紀ドイツ国法学の枠組みを「国際的な常識」と誤認しているのだろう。思うに、石破氏は、自覚はないかもしれないが、そのような時代遅れな議論をする一部の憲法学者の影響を受けて、大日本帝国憲法時代の「統帥権」や「統治権」の概念を復活させることこそが「国際的な常識」だと、考えてしまっている。そこから更に進んで、石破氏はガラパゴスな憲法学通説を信じる者だけが憲法改正を主張することができると思いつめてしまい、だからこそ日本国憲法を大日本帝国憲法と同じような発想の憲法に改正することが「国際的な常識」に適うのだ、という誤解をしているのだ。
自民党の有力議員が、こうした「ちゃぶ台返し」的な憲法論を主張しているのだとすれば、これはやはり憲法改正は困難を極める。これでは現行憲法の解釈論の混乱すら、収拾できない。この手の誤解をしている政治家たちに、日本の憲法学の通説が無謬であるかのような固定観念から離れるように働きける方法はないものだろうか。(おわり)
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