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2019-11-06 00:00
(連載2)緒方貞子氏を追悼することの真の意味
篠田 英朗
東京外国語大学大学院教授
2018年に殺害された援助関係者の数は、131人を数えた。140人が負傷し、130人が誘拐された。2017年の殉職者数も139人だった。2019年も、それ以上のハイペースで、犠牲者が出続けている。緒方氏がUNHCRを率いていた時代よりも犠牲者数はさらに増えているのだ。だが、以前ほど注目されていない。実は国連PKO要員も年間100人近くという高い水準で毎年殉職者が出ているのだが、日本では特に、全く報道もされていない。
世界的な武力紛争数・犠牲者数の増加と、対テロ戦争の拡大の情勢を見ながら、日本に暮らす者の感覚は、世界の現実から、さらにいっそう離れてきてしまっている。たとえば、緒方氏が他界したその翌日の10月30日、南スーダンでは、エボラ出血熱の拡大予防に従事していた国際移住機関(IOM)という国連機関の援助関係者が、政府軍と武装勢力の間の交戦に巻き込まれ、3人が死亡した。しかも、もう1人の職員だけでなく、殉職した職員の4歳の息子が誘拐されるという衝撃的な事態も起こった(*犠牲になったのは南スーダン人スタッフである可能性が高い)。解放を訴える国際的アピールがなされている。
今、この瞬間、人道援助の現場で殉職し続けている援助関係者がいるにもかかわらず、それらに注意を払うことなど全くなく、ただ、「ああ、緒方さんは素晴らしい日本人だったなあ、緒方さんの死を悼もう」などといったことだけをのんびりと言い続けるのは、もっとも緒方氏的ではない姿勢だ。職員の殉職に心の底からの怒りの叫びをあげた緒方氏の姿勢から、もっとかけ離れた態度だ。現代世界に紛争犠牲者があふれているが、終息していく見込みがあるわけではない。その現実に目を向けて「緒方氏は偉大な日本人だ、緒方氏の死を悼もう」とだけ言い続けるのは、あまりにも緒方氏的ではない。
「憲法9条は交戦権を否認している、交戦状態に巻き込まれたら、憲法違反だ!われわれ日本人は一切絶対に交戦状態に関わってはいけない!」と歪曲した9条解釈を掲げてデモ行進し続ける自称”平和主義”の人々が「緒方さんの死を悼む」などと言っているのを見ると、正直なところ心の底から陰鬱な気持ちになる。緒方氏は、「日本人も世界に目を向けよう」と言い続けていた。世界の趨勢から目をそらし続けながら、ただ緒方氏を悼むことだけに専心するのが日本人の姿なのだとしたら、私は緒方氏に申し訳ない気持ちになる。(おわり)
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