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2019-11-08 00:00
自衛隊を中東海域に派遣することの是非
伊藤 洋
山梨大学名誉教授
安倍政権は、アメリカとイランの対立が続く中、火中の栗を拾おうというのか、海上自衛隊の艦船を中東海域に派遣すると発表した。これもまた例によって米国への「忖度」ゆえであろう。ただし、この「忖度」は米国へだけのものではない。日本とイランとの間の歴史的な「友好?」関係という遺産をも「忖度」しているのだろう。本来、両立し難い両国への配慮のために出された結論が中東の海の「研究・調査」という名目だ。主体的な外交をできない日本政治の哀しさが見事なほどに露呈する。
この実に不可解な騒ぎは、イランとの間で出来ていた国際的合意=「イラン核合意」をトランプ米大統領が一方的に破棄したことが端緒である。アメリカ・ファーストを一枚看板にして次期大統領選挙勝利のための「政治」するトランプ氏は、イランを敵視することによって、イスラエルに親和性の高いユダヤ系アメリカ人や白人福音派(evangelicals)の票を期待しているのだ。このあまりに冒険的な行動も、トランプ氏にとっては単なる選挙戦術の一つに過ぎないのであろう。
現に、この決定をした2年前、ホワイトハウスでは、ティラーソン国務長官やマクマスター大統領補佐官、マティス国防長官などがこの「核合意破棄」に対して強く反対していた。それにもかかわらず、ティラーソンとマクマスターを更迭し、タカ派のボルトン安保担当補佐官、ポンペオ国務長官を側近とすることでこういう決定に至ったことはよく知られている。その他にも、トランプ大統領の娘夫婦など近親者のイスラエル政権との近さや、この「合意」をレガシーとするオバマ前大統領への当てつけも要因といわれる。このような政権に過剰に配慮する安倍政権は、米国政府の「判断ミス」を海上自衛隊の中東派遣で助長している、といわれても仕方ないのではないか。かつてPKO派遣などでは大いに政治的熟議が続いたものだが、今回の件では議論する場すらなく淡々と事を運んでいるのも強い違和感を覚える。
この海図なき判断をする政府は、中東の火薬庫であるホルムズ海峡のトバ口で起こりうる事態に本当に対処できるのであろうか。イランにも「忖度」したつもりのようだが、日本が期待したとおりイランが好意的に自衛隊を見るとは限らない。オマーン湾やアラビア海はそこがイランに近い分、イランがアメリカの影響下で自衛艦が活動をしていると解釈してもおかしくはないのだ。かつて一発のピストルから世界大戦が生まれたように、発火点にまで上昇した高温度の下では何が起こるか分からない。そんな中、火薬を積んだ艦船と軍服を着た公務員を「調査・研究」に派遣するリスクは計算し難く、そんな判断をするのは不見識ではないか。今回の自衛隊派遣は成算を感じられず拙速だったと言わざるを得ない。
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