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2019-11-22 00:00
アジアの戦略構図に影響、GSOMIAの失効
鍋嶋 敬三
評論家
日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)は土壇場での大転換がなければ、2019年11月23日午前零時に失効する。北朝鮮の核・ミサイル危機が進行する中、日米韓3ヶ国安全保障協力の「靱帯(じんたい)」となってきた協定はわずか3年で幕を閉じる。日本政府の韓国に対する輸出管理厳格化措置に対抗する形で、文在寅政権が8月に破棄を通告、双方の同盟国である米国を巻き込んだ同盟危機を作り出した。東アジアで米国を中心とする自由主義諸国とロシア、中国、北朝鮮という強権・全体主義国家群の対立が深まる中、この「事件」は地域の戦略的構図に少なからぬ影響を与えるだろう。日本の安全保障にとってゆるがせにできない事態である。破棄通告の完全な撤回以外に危機打開の道はない。
日本政府は「輸出管理とGSOMIA終了とは全く次元の異なる問題だ。韓国の終了通告は地域の安全保障環境を完全に見誤った対応と言わざるを得ない」(菅義偉官房長官)と韓国側の主張は認められないとの立場を貫いている。文政権は通商上の手続問題を軍事・安全保障上の問題にすり替えたのである。しかも、北朝鮮が膠着状態の対米非核化交渉を有利に進めようと5月以来、12回におよぶミサイル発射実験を繰り返している最中である。そもそもGSOMIAは日韓双方の同盟国である米国を介する情報交換から日韓が直接やりとりするためのものだ。それだけで緊急事態の察知、分析、対応への時間短縮と効果が高まることは言うまでもない。北朝鮮から飛来するミサイルの日本海への着弾の探知などに威力を発揮してきた。日本のミサイルや潜水艦の探知能力は極めて高いと国際的に評価されている。韓国に配備された米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)の存在も考えれば、GSOMIAは中国軍の動向監視にも有益なツールである。
文政権の破棄通告に対して危機感を強めた米国はエスパー国防長官、ミリ-統合参謀本部議長ら文武の国防トップや国務省高官を相次いで派遣して韓国を説得した。今後、在韓米軍駐留費負担金の大幅増額(一説には5倍)要求など、トランプ政権の対韓国姿勢が厳しくなることは避けられないだろう。エスパー長官は文大統領に対し協定の維持を強く求めたが、大統領は日本の措置撤回が先決との持論を繰り返した。長官が会談後の記者会見で、有事の際重要な協定の失効で「得をするのは北朝鮮と中国だ」と指摘したのはGSOMIAの本質を突いたものである。ミリ-議長も「日韓、米韓日にくさびを打ち込むことが北朝鮮や中国の戦略的利益になる」と警告してきた。北朝鮮への融和姿勢が顕著な文政権は同盟国・米国との摩擦を強め、逆に国連軍の名の下に米国やその同盟国・友邦の支援を頼りに朝鮮戦争を戦った相手の北朝鮮と中国を利する行動を取ったのである。
GSOMIAは東アジア安全保障協力のカギともなる重要な仕組みだ。中国もその行方に注目してきた。北京にあるカーネギー清華国際政策センターのTong ZhaoシニアフェローはGSOMIAの利点として日米、米韓の同盟システムがスムーズに動き、米国の負担を軽くして「同盟システムが全体として効果を上げる」ことを指摘した。まさしくその通りで、これこそ米国が期待してきたものである。逆に日韓の対立によって同盟システムがアジアの新たな挑戦に対処していけるか危惧される。ロシアと中国が同盟の弱体化に「つけ込もう」としていることも懸念材料だ。同氏はGSOMIAが東アジアで中国とロシアを封じ込める事実上の「3ヶ国同盟システム」=ミニNATO(北大西洋条約機構)につながると中国が警戒していると分析。その失効は中国の懸念を弱め、自信を深めることになると読んでいる。中国が対米関係で強気に出る材料が一つできたのだ。韓国は軍事的に第一の脅威である北朝鮮およびその後ろ盾の中国が「戦わずして勝つ」(孫子)ことに自ら手を貸したのである。これが文在寅政権の「本性」だとすれば、米韓同盟の将来も危うい。
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