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2019-11-22 00:00
(連載2)米中貿易戦争:中国の焦りと米国の算段
宇田川 敬介
作家・ジャーナリスト
中国共産党は、中国に厳しいトランプ大統領が政権から離れ、親中的なスタンスを取っていた民主党が政権に返り咲けば、ふたたび、あの手この手で米国の政府、国会、メディアなどに働きかけることで中国に優位な形で米中貿易戦争を終結させることも可能と判断している。というのも、中国は、米国の政治体制が、自国の政治体制と比較して、世論に大きく左右されており、したがって世論工作次第で、米国の対外行動をある程度操作できると考えているからである。つまり中国共産党は、「有権者が無知」であることが、民主主義の最も大きな弱点であると認識しているのだ。
もちろん「有権者が無知」であるということの意味は、有権者が愚鈍であるということではまったくない。有権者には日々の生活があり、趣味があり、仕事がある中で、そうした事柄に各人の知識や興味が偏るわけであり、政治や外交に知識や興味を深めずとも生きるのに支障がなく、深く考える人必要を感じる人が少ない、というだけの話である。そのため、前回の米大統領選におけるロシアの工作に代表されるように、他国による世論工作に曝されれば、民衆の多くがその影響を受けてしまう。そして、その民衆の支持を取り付けたい野党もその影響を受けざるをえない。
そのことをよくわかっているトランプ大統領は、中国と交渉する際には、まず官僚に前向きに発表させ、中国側に期待と弛緩が生じたところで自らちゃぶ台返しをする。中国はトランプ大統領の動きが読めないため貿易交渉と世論工作が上手く噛み合わないのだ。このような相手国との間に成立した交渉の積み重ねを反故にするという手法は、中国自身の常套手段であるが、そうした手法が自分たちに向けられると意外と脆い。トランプはビジネスマンとしてそのことをよく知っているので、中国を翻弄しているのだろう。
実際のところ中国の動揺は大きく、中国はトランプ政権との貿易交渉で幾度となく米国のアクションに反発してはいるが、交渉の席に留まり続けている。これはトランプ大統領にとっては、次期大統領選を見据えての、期待通りの行動だろう。トランプ大統領は、対中貿易戦争での優勢を、来年の大統領選のために有効活用しようとしているのだ。現在の票の読みから考えると、実際のところ米国経済の行方がトランプ大統領の当落を運命づけるだろうし、対中貿易戦争で勝利し、若しくは優勢であれば、勝利に向けた大きな材料になる。米中貿易戦争の本質を理解するためには、そうした多面的な分析が必要だといえよう。(おわり)
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