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2019-12-02 00:00
(連載1)米軍のシリア撤退:アメリカは本気で覇権を放棄したいのか
河村 洋
外交評論家
今般、ドナルド・トランプ米大統領は、シリアから米軍を撤退させ、中東において長年にわたりアメリカの同盟関係にあったクルド人勢力を事実上見捨てるという動きに出た。このことに国際社会が驚愕したのはいうまでもない。これは、アメリカが自国の国際舞台での安全保障上の関与を縮小するという、トランプ氏の選挙公約が実現に向けて動き出したことを意味する。トランプ氏の「アメリカ・ファースト」に向けた行動はシリアにとどまらない。今や彼の辛辣な言葉は、ポーカー・ゲームのためではなく、本気でアメリカの覇権を放棄しようとするという無責任さを示すようになった。まずシリアからの地政学的な後退について述べたい。
今回の件をめぐり、民主党ばかりか身内の共和党までもがトランプ氏に強く反発したのは、この地域に力の真空が生じることで、ロシアとトルコが地政戦略的に前進し、またISISが復活しかねないということに深刻な懸念を抱いたためである。米・外交問題評議会のリチャード・ハース会長は『プロジェクト・シンディケート』誌10月17日付けの論説で、トランプ氏の最も基本的な過ちは「中東における『終わりなき戦争』と同盟ネットワーク維持のための継続的な軍事的プレゼンスとを混同していることだ」と述べている。すなわち、トランプ氏が掲げるアメリカ・ファーストの公約は間違った前提に基づいているということである。
また、マックス・ブート氏は『ワシントン・ポスト』紙10月22日付けの論説で、トランプ氏は皮肉にも、前任のオバマ氏と同様の、あるいはさらに悪い過ちを犯していると指摘している。ブート氏は「2011年にバラク・オバマ大統領は、当時のヒラリー・クリントン国務長官、デービッド・ペトレイアスCIA長官、ジョン・マケイン上院議員らが反政府勢力への軍事援助に安全地帯と飛行禁止区域の設定を提言したにもかかわらずイラクの再現を恐れ、アサド政権がレッド・ラインを越えるまではシリアでの化学兵器使用阻止のための介入をしない方針を採った」のであるが、「オバマ氏はアサド政権を押し止められず、後にシリア政策を転換してクルド支援に乗り出すことになった。よってトルコとロシアを勢いづけるだけのトランプ氏のクルド放棄には正当性は何もない」と、痛烈に批判している。
ともあれトランプ氏は、中東での地政学的な優位のみならず、アメリカの価値観が持つ普遍的な正当性まで揺るがしつつある。現在、シリアのクルド人はトルコのPKKと緊密な関係にある。過去には共産主義との関係もあったが、近年のPKKについては、たとえばアメリカン・エンタープライズ研究所のマイケル・ルービン氏ら中東の民主化の専門家の間では、南アフリカのANCと同様に「自由の戦士」の団体だと見られている。トランプ政権は、こうしたクルド・トルコ関係をめぐる米・外交政策関係者の間で広く共有されている見方をも撥ねつけているだ。(つづく)
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