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2019-12-03 00:00
(連載2)米軍のシリア撤退:アメリカは本気で覇権を放棄したいのか
河村 洋
外交評論家
他方で、マイク・ポンペオ国務長官は10月9日放映の『PBSニュース』でハゾニー的なナショナリストの視座を掲げ、PKKはテロ集団であるというレジェップ・エルドアン大統領の見解に同意したうえにトルコの侵攻を擁護している。よってトランプ政権はシリアのクルド人勢力がアメリカのテロとの戦いに多大な貢献をしてきたことなど取り合わず、議会では与野党問わず批判を浴びるようになっている。
トランプ氏の地政学的な責任の放棄と「見返り重視」(quid pro quo)のナショナリズムによって、アメリカの同盟国との摩擦は避けられなくなった。盟友イスラエルも、トランプ氏がオバマ氏に劣らず中東の脅威に対して消極的だと思い知ったことだろう。また米国の福音派はトランプ氏の支持基盤として有名だが、イスラエルの安全保障が試練に立たされる時には何の頼りにもならない。さらに大西洋同盟の亀裂も無視できない。アメリカのシリア撤退でヨーロッパ諸国が恐れていることは、テロの復活と難民の流入だけではない。
かつてイギリス保守党で国家および国際安全保障の顧問を務めたガーヴァン・ウォルシュ氏は10月16日付け『フォーリン・ポリシー』誌にて「トランプ氏によるクルド人勢力の切り捨てが意味するところは、アメリカの安全保障の傘に守られたいならば、ウクライナのゼレンスキー政権のようにトランプ氏の個人的利益に尽くすしかなく、それが出来ないのであれば自主独立で行動しなければならない、とのヨーロッパ諸国に対する通告である」とし、「それがポーランド、ラトビア、リトアニアといった国々を心胆寒からしめている」と論評している。
シリアでの大失態に始まる孤立主義政策は、中東とヨーロッパにとどまらぬ甚大な損失となっている。アジアではトランプ氏は11月の東アジア・サミットを欠席した。彼には中国との戦略的競合など眼中にないということだ。さらにトランプ氏は防衛費をめぐる交渉に進展がないとして在韓米軍の撤退まで口にしたとあって、国防総省の高官を慌てさせた。そうした中で国防情報局は11月後半に「米軍が指導者のアブ・バクル・アル・バグダディ氏の殺害に成功したからと言っても、長期的にはISISはシリアで勢いを盛り返してくる」との報告書を発行した。ともかくトランプ氏は政権内の大人達を更迭し、アメリカ・ファーストという選挙公約の実行を阻むものを取り除いた。彼が再選されるようなら、国際社会にとっては目も当てられない損失となろう。その場合、アメリカの同盟国と外交政策形成者達は手を携えて、彼の言動に対する被害対策をすることになる。(おわり)
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