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2019-12-24 00:00
(連載1)ハゾニー的ナショナリズムが世界の無秩序化を加速する
河村 洋
外交評論家
きわめて逆説的なことに、ナショナリズムは、国際的にみて、ある国の国力を弱体化しかねない。たとえば現在、アメリカでは、ドナルド・トランプ大統領が掲げるポピュリスト的なナショナリズムは破滅的な内政の分裂をもたらしているが、さらに国際舞台では、それによってマイクロナショナリズムが勢いづき、国民国家や地域機関を分裂させかねない状況だ。究極的にはそれがアメリカの同盟国、そしてアメリカ自身の弱体化につながりかねない。こうした点について、マイケル・アントン元国家安全保障担当副補佐官は、本年4月の『フォーリン・ポリシー』誌にて、トランプ政権の外交政策について政権内部の視点から分析している。
アントン氏によれば、トランプ氏の外交政策観はどのイデオロギー的カテゴリーにも当てはまらないが、彼のアメリカ・ファーストというスローガンは人間の深層心理に根付く帰巣本能に由来するということだ。このアントン氏の指摘は妥当と思われる。また、アントン氏は、トランプ氏の思考をさらに深く理解するため、『ナショナリズムの徳』という著書で知られるイスラエルの政治哲学者ヨラム・ハゾニー氏の議論を適用してトランプ政権の外交政策について述べている。ハゾニー氏はトランプ現象を作り上げたわけではないが、欧米の極右ポピュリストに理論的な基盤を提供している。
ハゾニー氏は、アリストテレスの『政治学』に基づき、「ポリス」と「帝国」という概念を比較している。ポリスとは均質的な「エトネ」(ethne)、すなわち英語のethnicityから成り立っている。ポリスとはハゾニー氏が「自らが属するものへの愛」(love of one’s own)と述べる共同体本能に基盤を置き、そのことがアテネ人やスパルタ人といったポリス市民の間で自発的な愛国心を強めたということだ。アントン氏は彼の理論によってトランプ氏のアメリカ・ファーストな外交政策、すなわち「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」を正当化している。他方で帝国は普遍主義に基づく多様性のある政治形態である。
さらにアントン氏は、クセノフォン、マキアベリ、モンテスキューらの著作を通じ、アケメネス朝ペルシアとローマの歴史的な欠陥に言及している。彼の見解では、他民族の帝国は非常に巨大なので、大規模な軍隊と秘密警察ネットワークによって秩序を維持する必要があり、そのことが抑圧的な政治形態につながっている。同様に、現行のグローバル化と地域統合では「自らが属するエトネへの愛」という人間本来の性質が疎外されてしまうという。問題はエトネを広くも狭くも主観的に定義できることである。アレクサンダー大王はペルシアとの戦争開始にあたってその語を広く定義し、彼の言うヘレネスとはマケドニア人を含めた全てのギリシア人のことであった。(つづく)
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