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2020-01-03 00:00
米国のシーア派組織空爆が意味すること
久保 有志
公務員
昨年末以来、中東では超大国の大使館襲撃を引き起こす原因となった深刻な国際紛争が発生している。12月29日、米軍がイラクにあるイラン系武装勢力の拠点を空爆し、イスラム教武装組織「カタイブ ・ヒズボラ」に属する戦闘員多数が死傷した。この米軍の空爆に対する反応として、31日に、多数の暴徒がイラクにある米大使館を襲撃するという事態が生じた。このデモ隊は、イスラム教シーア派の「人民動員隊」の旗を振るなど、空爆の対象となった武装組織との連帯を表明した。人民動員隊は、「カタイブ ・ヒズボラ」と同様、隣国イランから訓練や武器の提供を受けていると言われている。
これらの事案が示唆したことを一つに要約すれば、それは、中東において、米国が軍事行動を引き起こすレッドラインを鮮明にし、潜在的に米国の権益を脅かしうる勢力に警告を与えたことである。そもそも今回の米軍による空爆は、イラク北部のキルクーク地区近郊にある米軍基地に対してなされたロケット弾攻撃――これにより米国人業者一名が死亡した――に対する報復と見られている。同空爆の後、ポンペイオ国務長官は記者団に「米国人を危険にさらすイランの行為をわれわれは容認しない 」とコメントしている。また、トランプ米大統領は大使館襲撃に関し、イランがデモを扇動したと非難し、ツイッターで「米国の施設で死者が出たり、被害が発生したりした場合、イランはその一切の責任を問われ、非常に高い代償を支払うことになる!これは警告ではなく脅迫だ」と述べた。
これは、米国の在外公館に対する襲撃を、米軍施設に対してなされた攻撃と同様の行為として非難し、報復の対象になることを示唆する強いメッセージとなっている。とくに米国の在外公館への攻撃は、国際法上の公館の不可侵が破られたとの形式的な抗議理由に加えて、 1979年の「イラン・アメリカ大使館人質事件」――イスラム法学校の学生らがテヘランのアメリカ大使館を占拠し、 444日間にわたって大使館職員ら米国人52人を拘束して立てこもった事件で、その後、国交断絶等、米国とイランの敵対関係の基調を形成した――を想起させるものであり、非常に象徴的な意味合いをもつ。
米国防長官は同事案を受け、大使館警備のためバグダッドに追加の治安要員を派遣する意向を表明するとともに、追加の軍事的措置を発動する可能性にも言及しており、今後、米国が同地域における自国の権益が侵害されたと判断した場合、さらなる軍事衝突に発展する可能性は否めない。米国とイランの関係については、2018年にトランプ政権がイラン核合意から離脱し、最大限の圧力政策の下、対イラン制裁を強化して以降、両国による非難の応酬と緊張状態はその度を増している。米国の圧力政策の根拠になってきたのは、イランが核開発再開の動きを見せる中、レバノンのヒズボラやイエメンのフーシー派、イラクの民兵集団等のいわゆる代理勢力を支援する形で中東の広範な地域に浸透し、米国の友好国、同盟国に対する攻撃を図って地域の不安定化を促進しているとの理解であった。
シリアのクルド人支配地域からの米軍撤退が履行され、サウジアラビアの石油施設に対する攻撃に米国はイランの関与を示唆しつつも、非難・声明以上の具体的な行動を取らなかったことから、イスラエル等一部の同盟国の間では米国の中東関与に対する不満を表明する論調が提示されるようになってきていた。そんな中、今般の米国による軍事行動は、米国の権益を侵害する勢力に対して懲罰的報復を加えるという強い抑止的メッセージを与えるものといえる。このことは、米国の中東地域における積極的関与を改めて表明し、イランによる地域の不安定化を阻止するという大義において、中東における米国の同盟国、友好勢力に保証を与える機能をもたらすであろう。
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