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2020-01-16 00:00
安保60年、米の理解深めさせよ
鍋嶋 敬三
評論家
日米安全保障条約が1960年に調印されてから1月19日で60周年を迎える。反安保闘争は全国に広がり、当時ノンポリ学生の筆者も大学から市街に繰り出してジグザグデモをした。現代の学生にとって「アンポ」は歴史の一齣(ひとこま)なのだろう。しかし「安保」は生き続け21世紀の日本の平和を担保している。日米安保体制の守備範囲も「極東」から「アジア太平洋」へ、そして「インド太平洋」へと拡大を遂げた。その背景には米ソ冷戦後の世界秩序の転換期における安全保障戦略の変化がある。冷戦後の世界は湾岸戦争(1991年)、米国同時多発テロ(2001年)などアジア、中東、欧州を含めて激動を極めた。アジアでは米中間のパワーバランスに変化が生じた結果、朝鮮半島や台湾など「極東」が主舞台と想定された「安保」の対象はインド太平洋に拡大した。
20世紀末期の米国後退、中国進出の端的な例がフィリピンからの米国海・空軍の撤退(1992年)であった。台湾に接する米軍基地の空白に乗じて南シナ海のフィリピン領岩礁を中国が占拠、埋め立てて造成した人口島を軍事基地化して南シナ海を「内海」化する攻撃的姿勢に転じた。トランプ現政権に至る歴代米政権は対中国政策の主軸を「関与」に置いたため、有効な対策を取ろうとしなかった。1996年の台湾海峡危機で米軍の圧倒的な軍事力を目の当たりにした中国は米軍を西太平洋から追い出すための接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力を強化してきた。南シナ海の人口島に滑走路、地対空・艦ミサイル、レーダー基地を急いで建設したのは、台湾侵攻を想定したA2/AD戦略のためである。アジア太平洋での米軍優勢の軍事力を維持する上で日米安保条約に基づく在日米軍基地や第7艦隊(母港・横須賀)の存在価値はますます大きくなっている。
安倍晋三政権下で成立した安全保障関連法制(2015年9月)は限定的な集団的自衛権の行使によって、あらゆる事態への切れ目のない対応を可能にした。政府は同法制が「日米同盟を強化し、抑止力を高め、地域と世界の平和と安定に資する」としている(防衛白書)。これに先立って日米両政府は「防衛協力のための指針(ガイドライン)」を改訂(2015年4月)した。その目的は日本のほか「アジア太平洋及びこれを越える地域の安定と平和のため」と規定した。これはインド洋や中東地域までを含意したものである。安倍首相とトランプ大統領の最初の首脳会談後の共同声明(2017年2月10日)は「米国は地域におけるプレゼンスを強化」する一方、日本は「同盟におけるより大きな役割及び責任を果たす」と明記された。2018年の新防衛計画大綱(30大綱)では宇宙、サイバー、電磁波など領域横断的作戦を行うための「多次元統合防衛力」の構築を目標とし、アジア太平洋への関与の強化も掲げた。
今後は「陸海空の統合運用や日米の共同運用が課題となる」(防衛研究所編「東アジア戦略概観2019」)。米軍は2010年ごろから領域横断を重視した戦略ドクトリンを発展させ、トランプ大統領は2019年12月、72年ぶりの新しい軍種として「宇宙軍」を発足させた。日本も呼応して2020年度予算案で航空自衛隊に「宇宙作戦隊(仮称)」を新編する。ガイドラインは「宇宙、サイバー空間における脅威に対処するため協力」を明記した。日米の「領域横断的な協力の強化は多次元防衛力推進の上で不可欠の要素」(同概観)。米中間のパワーバランスの変化によって「東アジアの国際政治構造に変革が訪れるとすれば」「日本にとって潜在的に大きな危険をはらむ」(同)とされる。米国の「核の傘」とともに沖縄の海兵隊と第7艦隊を含む在日米軍(基地)は中国の軍事進出を抑止する米戦略の基盤で、その安全保障戦略に多大な利益をもたらしてきた。国際秩序の転換期にあって駐留米軍経費の負担増要求しか頭にないようなトランプ大統領には日米安保体制が持つ米戦略上の意義と利益をとくと理解させる必要がある。それが大統領と親密な仲を誇示する安倍首相の務めである。
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