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2020-01-17 00:00
「ウラジミールとシンゾウ」の幻想
伊藤 洋
山梨大学名誉教授
回数だけは有史以来最も多く行われた安倍・プーチン日ロ首脳会談だが、はたして「君子の交わり」たりえたのであろうか、疑問無しとしない。そう思わざるを得ない、情けなくなるようなニュースが飛び込んできた。「北方領土歯舞群島周辺で安全操業のタコ空釣り縄漁を行っていた根室市内の漁協に所属する漁船8隻が17日、ロシア国境警備局の『臨検』を受け、このうち5隻が国後島古釜布(ふるかまっぷ)に連行された」(2019/12/18付け『北海道新聞』)。去年の今頃は、すぐにも第一段階として歯舞・色丹両島の施政権が返還されて日本領土になる、その上で本丸の国後・択捉両島の返還に向けて本格的に「外交の安倍の交渉力」が発揮される、と気の早い安倍政権を支持する過半の日本国民はこう期待していた。その願望を踏まえれば、これはまた驚天動地のニュースである。「ウラジミール」と呼び「シンゾウ」と呼ばれる「君子の交わり」は一体全体ホンモノだったのか。はたまた民をあざむくポーズに過ぎなかったのか。
「君子の交わり」は「淡きこと水の如し」という。そういえば、本当の「水」は無味乾燥にして淡白なものであって、そこに何か栄養分が含まれているわけではない。あの二人は文字通り「水」そのものだったのではないか。それでもなお27回も会って「語り合えば」いささかの友情と理解も生じようと思うのは、なおもって筆者の見通しが甘かったのであろうか。「ウラジミールとシンゾウ」という二人の権力者の交わりは、「彼の故無くして以て合する者は、則ち故無くして以て離る」という「荘子(そうし)」の箴言の方がむしろ相応しい。そういえば『荘子(そうじ)』には「君子は淡くして以て親しみ、小人は甘くして以て絶つ」との反証も書かれている。つまり、二人のうち少なくとも安倍氏は「小人」にしてその外交力は「甘」かったのではないか。
祖父が結んだ日米安保に忠実な安倍総理大臣の「従米」外交。その中での一挙手一投足を凝視してきたプーチン大統領が、自らの鼻先に米軍基地を造られてしまう可能性をみすみす見過ごす訳がない。それは4島を2島と言えば済むような話ではそもそもなかった。まして、日本国憲法をも変えようという心根からして、プーチン大統領の想像力では日露平和の姿が想起できなかったことであろう。
ここまで来たら、安倍首相は自らの対露外交が失敗であったことを国民に正直に認めるべきではないか。今後さらに致命的な失敗を重ねて「悪夢の安倍政権」として歴史に書き込まれる前に、会う回数が積み重なっただけの「ウラジミールとシンゾウ」の結束が幻想であったことを認めて、北方領土問題、日露平和条約交渉のどちらについても、機を逃さず後進に道を譲るがよかろう。やはり外交は、山高きがゆえに尊からず、である。
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