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2007-08-09 00:00
世界への学術情報の発信を強化しよう
鈴木智弘
信州大学経営大学院教授
著者は本欄への前回投稿(337号)において、アジアを中心とする日本の大学への留学生事情について論じた。日本語が英語のような国際言語になれないことが、日本が内外の優秀な人材を集めるための競争に苦戦している一因と言える。今回は、留学生の受入れではなく、日本から世界への情報発信、特に学術面について論じたい。
自然科学だけでなく、最近は社会科学においても、英文の査読誌に業績を発表することが基本になってきた。海外留学経験の豊かな研究者も増えてきている。ただし、今回の従軍慰安婦を巡る米国議会の決議採択でも痛感したが(この決議採択の背景には米国政治の特殊事情や某アジア諸国のロビー活動などがあり、このことは他の有識者が論じると思われる)、自然科学と比較すると社会科学分野における、わが国から世界への情報発信は十分とは言えない。情報発信は論文に限られるものではない。各種の国際学会、国際会議に出席する日本人研究者は多い。しかし、発言する日本人は少ない。
私の専門の金融や経営においても、国際会議に出席し発言する研究者は、いつも同じようなメンバーである。そのため、特定の研究者の発言が、日本の有識者を代表していると誤解されることも多い。経済学では、英語で世界に情報発信している研究者は、いわゆる近代経済学分野に集中しているように思える。歴史や社会制度の研究者の中で、英語でわが国の諸事情を世界に的確に発信できる研究者は少なく、そのため限られた研究者の見解が世界に発信されている。
また、最近の大学教員は、目標管理で縛られるようになり、研究分野での評価は理工系基準が準用され、英文査読誌への掲載本数が重視されるようになってきている。その基準では、査読誌が多数存在し、数式を中心とした専門用語を中心とした簡便な英語で執筆できる分野を専攻する研究者が高評価となる。その結果、現実の社会現象には余り興味を持たずモデルの形式美ばかり重視する、あるいは査読誌に掲載されやすい流行を追うような研究が増えているとの危惧もある。
しかし、そうは言っても、わが国に世界から優秀な人材を集めることと同じく、わが国から世界に学術情報を発信するためには、ITと同じく、英語での情報発信能力の向上が求められているのは、確かなことであろう。
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