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2020-02-14 00:00
「痛恨の極み」だけで時が過ぎる拉致問題
荒木 和博
特定失踪者問題調査会代表
2月3日に拉致被害者、有本恵子さんの母、有本嘉代子さんが逝去されました。享年94。「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」(家族会)で、嘉代子さんは唯一の大正生まれでした。家族会に残っている親世代は、嘉代子さんのご主人の明弘さんと横田滋さん・早紀江さんご夫妻の3人だけです。昨年お宅に伺ったとき、嘉代子さんは入院中でした。職人気質で普段弱音を吐くことのない嘉代子さんのご主人の明弘さんが「あと1年もつかなあ」とつぶやいたのを聞いたときは正直ショックでしたが、実際その通りになってしまいました。嘉代子さんのことを思うと、これまで亡くなった多くの政府認定拉致被害者や特定失踪者のご家族の顔が次から次へと浮かんできます。ご家族だけでなく、救出運動に参加して先に逝ってしまった人たちも少なくありません。そして、われわれがまだ知らないだけで、北朝鮮で一生を終えてしまった被害者もいるはずです。
嘉代子さんに対して、政府がどうするのかはわかりません。しかし、どれほど手厚くしたところで、嘉代子さんが帰ってくるわけではないのです。有本嘉代子さんの逝去にあたって総理は「痛恨の極み」とコメントしました。「痛恨の極み」という言葉は、悪意を込めて言えば、自分には責任がないということです。「取り返せなくて申し訳ない」と、なぜ言えなかったのか、おそらくこれは安倍晋三という政治家個人の意思ではなく、日本政府としての立場なのでしょう。
気づいていない人が多いのですが、帰国している拉致被害者5人とその家族について、日本政府から出したのは支援法に基づく最長10年間の生活支援のためのお金です。彼らが北朝鮮に拉致されていたときの24年間については誰も補償していないのです。もちろん本来は拉致した北朝鮮が責任を負うべきですが、北朝鮮が補償金を支払う可能性はなく、そうであれば拉致を防げず、24年間日本に取り返せなかったことの責任を持っている日本政府が本来なんらかの補償をすべきだと思います。まさか5人、曽我ミヨシさんを入れて6人が自分で喜んで北朝鮮に行ったと思っているわけではないでしょう。しかし補償をするとなればどこにどういう責任があったのかを明らかにしなければなりません。明らかにしようとすれば拉致問題の闇に突き当たる。だから皆見て見ぬふりをしてきたということです。
もう一度、この問題の責任がどこにあるのか、国会で議論してもらうべきなのは当然ですが、個人でも考えてみて下さい。このままでは事あるごとに「痛恨の極み」で時が過ぎ、拉致問題自体がなかったことにされてしまいます。拉致をしたのは北朝鮮でも、それを防げず、取り返すこともできなかった責任は明確に日本政府にあるのです。加代子さんが逝去された今、何よりもなすべきことは恵子さんを取り返して、せめて母の墓参りができるようにすることではないだろうかと思います。
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