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2020-02-17 00:00
北の非核化(CVID)は幻想か?
鍋嶋 敬三
評論家
2回目の米朝首脳会談(ベトナム・ハノイ)の「物別れ」から早くも1年。鳴り物入りの初のトランプ・金正恩会談(2018年6月、シンガポール)以来、米国が目指した「完全で検証可能、不可逆的な非核化(CVID)」に向けた実質的な進展は見られない。トランプ大統領の一般教書演説(2月6日)では米朝交渉については一切言及されなかった。交渉の進展がないことを裏付けるものだ。金委員長は2019年末の労働党中央委員会総会の演説(1月1日公表)で、「米国が敵視政策を最後まで追求するなら、朝鮮半島の非核化は最後までない」と断言し「新たな戦略兵器」の出現まで予告した。一方で、「抑止力強化の幅と深度は米国の今後の立場次第で調整される」とも延べ、交渉プロセスに条件を付けた。このような情勢を受けて、米国内に「凍結論」がまた現れてきた。CVIDは幻想に終わるのか?
安倍晋三首相は1月20日の施政方針演説で北朝鮮の核・ミサイルへの言及がなかった。日朝国交正常化は核・ミサイル・日本人拉致問題解決の3点セットが条件ではなかったのか?首相は「我が国国民の生命と財産を守るため毅然と行動していく」と付け加えたが、「核・ミサイル」の文言が外されているのは意図的ではないのか。金演説の直後にトランプ大統領は「彼は非核化の文書に署名した。約束を守る男だ」と述べた。米朝交渉の不調を見て、大統領選挙戦で成果を誇示したいものの進展がないトランプ氏への忖度があったのではないか、と見るのはうがち過ぎか?米朝間でとりあえずの「合意」を急ぐあまり、核兵器や日本全土を射程距離に収める中距離弾道ミサイル「ノドン」などを温存させては日本の安全は守れない。筆者は本欄(e-論壇「百花斉放」)で昨年も「凍結論」に警鐘を鳴らした。
2020年1月末に米カーネギー国際平和財団の上級研究員2人が共同執筆した論文の「凍結論」は、金演説を受けて「朝鮮半島の非核化の可能性は遙かに遠い」との判断に立つ。米国は「より現実的な戦略」を必要としており、交渉の目標として核・ミサイル兵器体系に「質量ともにフタ」をして、さらなる強大化を防ぐため「包括的な凍結」を主張した。金演説から見て、北朝鮮が求めるのは国連制裁の解除であり、これが交渉の窓口になるというのである。「凍結論」の根底にあるのは、北朝鮮との交渉疲れだが、これこそ、北朝鮮の「思うつぼ」である。北朝鮮は核・ミサイルの開発の成果、彼らの言う「抑止力」を放棄せずに「核保有国」の地位を得て、対米交渉上の有利な立場を維持できるのだ。
米国の朝鮮問題専門家として名高い戦略国際問題研究所(CSIS)のビクター・チャ上級顧問は、金演説を先取りする形で昨年末に出した論文で、ハノイ会談の失敗以降、米朝交渉に進展がなく「転換点」に達したとの判断を示した上で、「2020年中に広範な非核化の取り決めはない」と予測した。そして米国の課題として①制裁の強化か緩和か、②米韓合同演習の継続か否か、③在韓米軍駐留経費の増額交渉、④日米韓関係の改善ーを挙げた。韓国の文在寅・左派政権の下で米韓同盟関係が緊張すれば(昨年11月の日韓軍事情報包括保護協定の破棄通告や米軍駐留経費問題で露わになった)、北朝鮮に有利に働き、文政権が中国寄りに傾斜を強める危険すらある。日米韓3ヶ国外相が1月、米国サンフランシスコに続き、2月15日にもドイツのミュンヘンで会合し、3ヶ国の連携強化をアピールした。米国を軸とする同盟関係が揺るぎを見せれば北朝鮮に付け入れられる情勢であることを反映したものであろう。北朝鮮が核・ミサイル開発の成果を懐に入れたままの米朝合意は日米同盟関係に深刻な影響を及ぼすことを、安倍首相はトランプ大統領に厳重にクギを刺しておかなければならない。
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