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2020-03-07 00:00
日本政府のAWS採用が提起する真の問題
大矢 実
日本国際フォーラム研究員
2月12日付け日経新聞に「政府の基盤クラウド、Amazonに発注へ」との記事がでた。日本政府が米アマゾンのAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)を政府の基幹システムに採用することを決定したとの内容であるが、読者のなかには「政府の情報システムの中枢を外資に明け渡すなど言語道断」と問題視する向きもあるようだ。今回の件については、たしかに政府の安全保障意識の観点からの議論も可能であるが、私としては少し違った角度から考えてみたい。すなわち、日本のITインフラ技術の開発水準についてである。
まずは、我が国の「政府共通プラットフォーム」開発の歴史について振り返ってみよう。もともと中央省庁の情報システム開発については、各省庁が個別に、それぞれ独自の要求を定めて提案依頼をし、国内の大手SIer(システム開発会社)に発注していた。したがって仕様が省庁間で共通化されておらず、同じ日本政府でありながらに縦割りで融通のきかないレガシーシステムが蓄積していた。この具合の悪さに気づいた日本政府は、2010年に国家IT戦略の一環として、政府共通プラットフォームを整備することを決定し、省庁横断的にシステムの最適化を図ることとした。これにより、各省庁は政府共通プラットフォームを前提に個別のシステム開発運用を行い、全体最適なITソリューションを享受できるように……なるはずであった。
ところがである。2018年に総務省が19億円の血税を投じて国内SIerに開発させた機密管理システムが全く運用されないまま廃止になるという出来事があった。もちろんこのシステムも、上記の政府共通プラットフォーム上で運用されていたものである。また2016年の段階で、会計検査院が、この政府共通プラットフォームが費用対効果と運用状況の両面からみて甚だしく不十分であるとの評価を下していたことも話の伏線となっていた。この政府共通プラットフォーム開発は、勘定系システムなど巨大システムの構築に強い国内最大手のSIerが受注したものであったが、そのパフォーマンスや採算性などにおいて拭いきれない疑問が露わになったのである。結果的に日本政府は、国内SIerにITインフラ整備を期待するのは短期的には難しいとの判断を下し、次世代の政府共通プラットフォームについては、米アマゾンのAWSを採用したわけである。
もちろん、日本政府が国内SIerに見切りをつけたわけではない。これまで中央省庁の案件を受注してきた企業が、NTTグループ、富士通、NEC、日立などといった「日の丸組」であることからもわかるように、日本政府はできれば公的インフラについては国内で充足を図りたいと考えているはずだ。ゆえに、日本政府は今後、基盤システム開発をことごとくアマゾンなど海外企業に依存するというわけではなく、引き続き国内大手SIerに基盤システム開発の機会を与えるだろう。このような経緯を見るに、日本政府としては、システム開発能力の日米格差の拡大と実際の要求仕様という現在位置を踏まえて、ギリギリの判断としてAWSを採用し、且つ国内SIerが挽回する余地も確保していると、言いたいところではないだろうか。つまり、今回のニュースでもっとも重要なポイントは、政府の機微情報を外資に委ねる云々という次元での懸念は脇に置くとして、国内SIerがその開発力ゆえに今回のような案件を手放さざるを得なかったということである。かつては「鉄は国家なり」などといわれたが、いまや「ITは国家なり」といっても差し支えない。この話は、そういう側面から見つめてこそ問題の本質が浮かび上がるのではないか。
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