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2020-03-19 00:00
危機こそチャンス、資本主義の原点回帰へ
四方 立夫
エコノミスト
株価の急落が止まらない。トランプ大統領は今年の年頭教書の中で「米国経済は史上最高だ」と述べているが、それは将に「砂上の楼閣」であることが明らかになった。米国企業は時価総額の上昇を至上命令として、自社株購入や当期利益を超える配当などにより債務超過に陥りながらも人為的な株価の吊り上げに懸命である。振り返ると金融危機、経済危機はほぼ10年毎に繰り返されている。先のリーマンショックの主因の一つは「サブプライムローン」であったが、金融機関は今もまた同様のコンセプトである“CLO : Collateralized Loan Obligation”いわゆる「ローン担保証券」を駆使して目先の利益の確保に血道を上げている。日本の農林中金もCLOを8兆円も保有していると報じられている。
ウォール・ストリートのメガバンクが先の危機で学んだことは、「“too big to fail”であれば、また失敗しても政府が国民の税金で救済してくれ、また更に儲けることができる」ということであった様に思われる。従い、株価の暴落は予め予期されていたものであり、コロナウイルス騒ぎが引き金を引き現実となったものである。即ち、問題は資本主義そのものが「産業資本主義」から「金融資本主義」に転化したことにある。つまり「金が金を生む」ものに変質し、社会の発展の基礎となる技術革新を怠ってきたということだ。その間、5Gをみればわかるように、中国が西側諸国に追随を許さないほど技術的にもコスト的にも優位に立ってしまった。今も優秀な学生は地道な科学や技術の研究ではなく、直ぐ金になる金融の世界に進む傾向にあり、益々中国の優位が際立ってくることが危惧される。
一方、これに気付き改めようとする動きがあることは朗報である。本年1月のダボス会議で採択された「ダボス・マニフェスト2020」には、資本主義が現在の“Stockholders’ Capitalism” (株主の価値を最大化するのが目的、企業はもっぱら時価総額で評価される)から“Stakeholders’ Capitalism”(株主のみならず従業員、顧客、住民、など関係者全ての利益をめざす)に代わるべきである、との提言がなされた。それに先立ち昨年8月、アメリカの主要経済団体の一つである「ビジネス・ラウンドテーブル」 は181のCEOが署名した「米国企業は、顧客、従業員、供給者、地域社会、そして株主、全てのステークホルダーの利益に貢献する」との声明を発表し、調印者の中にはゴールドマン・サックス、シティ・グループ、バンク・オブ・アメリカなどの金融大手も名を連ねている。更に、2018年アーミテージ・ナイレポートでは、日米安保条約2条(経済協力)に言及し、“Business Government Dialogue”を開き、日米CEOと両国の政府高官が一同に会して議論すべきことを提唱し、経済と安全保障をリンクさせている。
技術革新をベースとした健全な実体経済に資本主義を引き戻し、自由競争に基く富の創造と公平な分配、という「原点回帰」することこそが自由主義社会に再び平和と安定を取り戻す鍵である。今回のコロナウイルス騒ぎをそのための奇貨としたい。
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