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2020-03-23 00:00
米中相克の本質あぶり出す「コロナ」
鍋嶋 敬三
評論家
世界的大流行(パンデミック)の新型コロナウイルスは3月23日現在、世界で感染者が30万人、死者は1万人を超えて収束の見通しも立たない中、米国と中国の対立が激化した。米国務省は2月、中国国営の新華社通信などメディア企業5社を「中国共産党の宣伝機関」と認定した。従業員名簿や雇用、資産の報告を義務付け、従業員の大幅削減も命じた。中国もすかさず、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙記者3人の記者証を取り消した。原因は外部執筆による「中国はアジアの真の病人」と題したコラムにあるという。中国外務省の報道官はコラムが「人種差別のニュアンスがある」と非難、5社への認定にも「断固反対」と強く反発した。
中国は3月18日にはWSJ、ニューヨーク・タイムス、ワシントン・ポスト紙の主要3紙の記者証の返還を求めたうえ、VOA放送、タイム誌を含めた5社に従業員数、不動産などの報告を求める対米報復措置を実施した。中国外務省は「在米中国メディアへの不当な政治的圧迫への対抗措置であり、米メディアに問題があるなら米政府に提起すべきだ」(3月18日耿爽報道官記者会見)と突き放した。コロナウイルスの発生源を巡っても米中高官の間で非難の応酬が続く。米政府は「武漢ウイルス」(ポンペイオ国務長官)、「中国ウイルス」(トランプ大統領)など発生場所を特定する名称を付けている。これに対して中国側は「コロナウイルスを中国に結びつけて汚名を着せる米国に断固反対する」(耿爽報道官)と強硬な反発を見せた。中国の別の報道官は「米軍が感染症を武漢に持ち込んだかも知れない」とツイートしたと言われるが、耿爽氏はそれには触れずに「ウイルスの出所は科学的評価によるものだ」として「未確定」の立場を示している。一方、米国は「米軍の仕業とするのは無責任で受け入れられない」(国務省高官の記者ブリーフィング)と一蹴した。
ポンペイオ長官は3月17日の記者会見で「武漢ウイルスを最初に知ったのは中国政府」であり、今までのウイルスとは違ったリスクがあることを注意する「特別な責任がある」があるとして、「世界がこのリスクを知るまでに恐ろしく長い時間を要した」と述べて、中国の「隠蔽体質」を非難した。さらに、長官は中国による「偽情報キャンペーン」にも言及、「世界の各国はすべてのデータを共有する責任があり」、人々の生命を救うために「中国共産党は責任がある」と迫った。米中両国は2018年以降、トランプ政権による制裁関税発動によって貿易摩擦が激化、2020年1月には「第一段階」の貿易協定に署名して小康状態だが、再燃の余地は大きい。「コロナ」による景気後退、不況の足音も聞こえてくる。「コロナ」の責任を巡る非難の応酬、メディアへの規制合戦は米中対立が経済摩擦から政治、社会制度の基本的な領域にまでおよんできたことを示すものだ。
中国政府は国内外の批判をかわす世論工作に打って出た。中国は巨大経済圏構想「一帯一路」で影響力を強めるユーラシア戦略を推進しており、コロナウイルス感染が拡大するイタリアやギリシャなど、中国との関係強化に積極的な諸国への医療協力推進やマスクの大量提供など支援を拡大、「救世主」役を演じている。「コロナ」の蔓延で国内の権威低下を警戒する習近平指導部の権力維持が目的の政治戦略である。メディアを共産党の統制下に置いて権威主義体制を維持する「道具」として扱うか、政府も含めて批判する機能を有する民主主義の重要な手段と見なすか。表現の自由の原則では米中両国の立場は全く相容れない。今回の展開は、米中対立が貿易摩擦のような交渉による妥協が可能なものではなく、言論の自由、民主主義、人権といった社会の基本的な価値観の違いが根底にあるという点で米中相克の本質をあぶり出したものにほかならない。
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