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2020-04-21 00:00
(連載1)地経学から見た新型コロナウイルス
河合 正弘
日本国際フォーラム上席研究員/東京大学公共政策大学院客員教授
戦後の自由で開かれた国際経済秩序は、中国経済の急速な台頭、米国経済の相対的な退潮、トランプ米政権の多国間主義・国際協調路線の軽視で大きく揺らいできた。2017年から先鋭化した米中覇権競争は貿易、経済、技術、安全保障の分野に拡大し、さらには自由で開かれた民主主義・市場経済主義と強権的で専制的な社会主義・国家資本主義の間の優劣という体制間競争の意味合いも持つようになってきた。新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な感染拡大(パンデミック)は、米中対立の激化など「地経学」的な効果をもたらすとともに、国際経済秩序の将来にさらなる問題点を投げかけている。
新型コロナの感染拡大で、中国だけでなく日本・米国・欧州でも大幅な経済収縮が起きている。国際通貨基金(IMF)は、新型コロナ危機により、2020年の世界経済の成長率がマイナス3.0%に落ち込むと予測し、クリスタリナ・ゲオルギエワ専務理事は「(1929年に始まった)大恐慌以来の不況」に陥るとしている。感染の震源地である中国では、20年第1四半期のGDPの伸びが四半期データのとれる1992年以降初めて6.8%のマイナス(対前年同期比)になった。日・米・欧でもGDPの伸びは大幅なマイナスになっていると思われるが、その経済収縮の底が20年第2四半期でなくそれ以降になる可能性も否定できない。中国経済の底は第1四半期だった可能性が高く、たとえそれが第2四半期までずれ込むとしても、日・米・欧よりも早期に成長回復を果たす気配をみせている。
またリーマンショック時には、米国が主導して主要先進7か国(G7)や主要20カ国(G20)を中心に国際政策協調が進められたが、今回は「自国第一主義」をとる米国が十分な主導力を発揮しておらず、世界的な新型コロナ危機や経済危機から脱するための国際協調の機運が弱い。新型コロナ危機の前から米中経済のデカップリングが懸念されていたが、それに加えて今回は、感染拡大の阻止や医療品・機器の確保のため、各国は国境制限を設け、中国に過度に依存するサプライチェーンの貿易構造を見直そうとしており、グローバル化の流れが逆行する兆しがある。欧州域内でも、感染が国境を超えて広がった当初、欧州連合(EU)が一体となって対応するのではなく、各国が自国を優先する対応を行った。EUが共同で債券(コロナ債)を発行して、新型コロナ危機で苦しむイタリアやスペインなどに資金支援を行う枠組みも、ドイツやオランダの反対で実現していない。
米国と中国は新型コロナウイルスの呼称や発生源を巡り対立しているだけでなく、世界保健機関(WHO)の役割に関しても確執が高まっている。トランプ米政権は、WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェソス事務局長があまりにも中国寄りで、かつ新型コロナの世界的な感染拡大の初期に不適切な決定やアドバイスを行ったとして、資金拠出を停止することを検討中だ。WHOに問題はあるにしても、今まさにパンデミックと闘っているところであり、途上国での感染拡大の防止に向けてむしろさらなる資金支援が必要だろう。加盟諸国は、コロナ終息後に改めてWHOの評価を下すべきだ。中国は独自に「マスク外交」を展開し、アフリカなど途上国の支援にも乗り出しているが、欧米諸国は、こうした動きを危機に乗じた勢力圏拡大の試みだと見ている。中国はWHOなど多国間の枠組みを通じた支援に重点をおくべきだ。(つづく)
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