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2020-05-23 00:00
空港での検疫厳重化こそが死活的国益
篠田 英朗
東京外国語大学大学院教授
ある有識者の集まりが54兆円かけてもPCR検査を全国民に施せば安心が得られる、という「国民運動」を起こそうとしている。また、政府は新型コロナウイルス感染症の収束をにらみ、抗体検査やPCR検査によって非感染が確認されたビジネス渡航者に「陰性証明書」を発行し、中国などへの渡航を容認する方向で検討に入ったともいう。だが、いくら出国する際に陰性である可能性が高いとしても(ただし何日も前の検査ではそれも怪しい)、帰国してきた際の陰性が証明できなければ、日本のリスクは高まる一方ではないか!ここで強く主張したいのは、空港での検疫体制の充実こそが、今後の新型コロナの蔓延の抑え込みと社会生活活動の回復にとって、死活的に重要な国益であるということだ。
現在の日本の劇的な新規感染者数の減少は、国民の多大な努力によって成し遂げられたものだ。しかし3月中旬の海外入国者の停止が、減少を可能とする大きな土台であったことも、間違いない。逆に言えば、3月下旬に見られた急激な新規感染者数の増加は、相当程度に海外からの帰国者によって作り出されたものであることが、すでにわかっているはずだ。こういうと「二週間の自宅隔離をお願いするかもしれません」と言った反応をするのかもしれない。だがそんな誰が守るのか定かではないその場限りのお願いが対策になるのであれば、今までだって渡航制限などかける必要がなかった。
実は現在は、限定的な形で入国してくる者の数が少ないため、対象者全員にPCR検査を行っている。だが、そのため対象者は4月の帰国者が多かった時期は数日を空港の段ボールベッドで過ごし、当時は話題になった。このやり方では、入国者が増えた際に、全く持続可能ではないことが明らかである。やむをえなければ、待機宿泊施設の大幅拡充も仕方がないのかもしれないが、そうだとすればそこに資源投入することも「空港におけるPCR検査体制の充実」の不可欠の一部となる。あるいは従来のCTスキャンをはじめとする複数の簡易検査方式を全員強制とし、二段階・三段階方式で陽性者を入国時に識別する検疫体制の確立が代替案になるのであれば、それを研究するべきだろう。その場合でも施設面への影響は少なくないと思われるので、信頼できる相手国とは搭乗時における検査の証明をもって入国許可とする相互協定を結んだり、航空機内での検査と待機を可能にしたりする措置などが必要になるのではないか。いずれにせよ、空港での検査体制の確立がなければ、緊急事態宣言下の国民の努力も水の泡である。
全世界で460万人以上の感染者がいる現実から目をそらし、上記の通り、冒険的な方法で人の移動を回復させることは、極めて危険だ。国境を超えた人の移動を可能にする航空業界にとっても中国等で感染した帰国者が搭乗するという決定的な致命傷をつくりかねない以上、航空券に「検査税」を上乗せしてでも、空港における義務的な厳重検疫体制の充実を図り、それをもって航空路を使った人の移動の回復の条件とするべきだ。PCRをめぐる机上の空論に惑わされ、かえって危険な思考に陥ることを警戒してほしい。ポスト緊急事態宣言の時期においてこそ、いよいよ本格的に、徹底して戦略的に資源投入して合理的な政策をとることが求められてくる、ということを肝に銘じてほしい。
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