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2020-05-25 00:00
イデオロギー正面に「米中冷戦」本格化
鍋嶋 敬三
評論家
中国の第13期全国人民代表大会(全人代)の第3回会議が5月22日開幕、香港に国家安全維持のための法制度と執行メカニズムを創設する法案審議に入った。米英など西側諸国が「一国二制度」の下、香港に高度の自治を認めた1997年の中英共同宣言に反すると批判したのに対し、中国は「内政干渉だ」と反発、対立が先鋭化した。米トランプ政権は全人代に合わせるかのように、新たな対中戦略報告書を公表した。米中関係の緊張は貿易、経済を巡る対立から、中国・武漢を発生源とする新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)の国際的責任を巡る論争の最中に香港を舞台にしたイデオロギー対決が正面に躍り出た。「米中冷戦」は自由主義・民主主義陣営と社会主義・権威主義陣営との「体制間競争」が本格化した。日本はこの現実から目をそらしてはならない。
トランプ大統領は5月21日、香港にかかわる法案について「極めて強力に対処する」と厳しい視線を向けた。上院も新たな対中制裁法案を準備している。ポンペオ国務長官は翌22日「高度な自治への弔鐘だ」と批判、「米国は香港市民とともにある」と香港の民主派にエールを送った。ラーブ、シャンパーニュ、ペインの英加豪3ヶ国外相も米国に歩調を合わせて共同声明を発表、「中英共同宣言は法的拘束力があり、市民、議会、司法の直接参加なしに一国二制度の原則は失われる」と中国を批判した。これに対して中国の国務院香港マカオ事務弁公室の報道官は直ちに「国家安全は一国二制度の核心だ。国家安全の維持は純粋に中国の内政問題であり、いかなる外国も干渉の権利はない」とする声明を発表、米英などの批判を一蹴した。米国では2019年11月に中国は一国二制度を順守しているかを毎年検証する「香港人権・民主主義法」が成立しており、米中対立の激化は必至である。
米ホワイトハウスは5月20日、「中華人民共和国に対する戦略的アプローチ(USSAPRC)」と題する報告書を公表したばかりである。トランプ政権は2017年12月に発表した「国家安全保障戦略(NSS)」で中国やロシアを「現状変更勢力」と規定、「中国はインド太平洋地域でアメリカに取って代わろうとしている」と位置付けた。USSAPRC報告書はこれを基礎に世界貿易機関(WTO)の恣意的な利用、重商主義的アプローチや「一帯一路」構想などの経済的挑戦、東シナ海や南シナ海などでの安全保障上の挑戦に加えて、「価値への挑戦」を重視した。中国は西側とのイデオロギー競争を明確に示しており、習近平国家主席が2013年、「資本主義は死滅し、社会主義が勝利する運命にある」と言明したことを取り上げた。習主席が2017年に言及した「中国の特色を持った社会主義体制」はマルクス・レーニン主義イデオロギーの北京流解釈であり、一党独裁、国家主義経済、国民の権利の中国共産党への従属が一体化したもので、西側世界の代議政治などの原則とは相容れないとする対中イデオロギー闘争宣言である。
USSAPRC報告書はトランプ政権による「中国への根本的な再評価を反映」したものだ。「二つの体制間の長期にわたる戦略的な競争」の中にいる米国として、国家安全保障戦略(NSS)に書かれている「原則に則ったリアリズムへの回帰」を打ち出した。関与政策によって、中国が自由で開かれた国際秩序の一員になると期待した過去の政権の理想主義的アプローチを完全に捨て去ったのである。トランプ政権が関与を強めてきた台湾には、中国の軍事力増強(2020年国防費6.6%増=全人代で公表)に対して軍事援助を継続する方針を明確にした。台湾と断交する国の拡大を防ぐ台湾支援法が3月に成立、中国が絶対に譲らない「核心的利益」とする台湾を巡る米中の対決機運はさらに強まる。「台湾侵攻」をにらんだ中国による沖縄県・尖閣諸島への意図的で恒常的な領海侵犯など緊迫の度を一層高めることになる。安倍晋三首相は米中冷戦の深刻化を的確に反映する安全保障戦略の再構築と防衛態勢の強化を大胆に遅滞なく進めなければならない。
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