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2020-05-31 00:00
(連載1)改めて「対中外交の4本柱」を提起する
北原 二郎
会社員
日本を含む世界各国政府がコロナ禍への対処とその後の経済再建に注力せざるを得ない状況下で、尖閣諸島周辺を遊弋する中国公船が我が国領海に侵入し、あまつさえ日本漁船を数十キロメートルにわたり執拗に追尾したというニュースが飛び込んできた。まさに誰もが予想した通りの中国の動きであるが、やはり日本のマスコミの取り上げ方もコロナ関連のニュースに比べてはるかに簡単なものであった。尖閣諸島をめぐる問題については、これまで
「尖閣問題は時間との勝負、国際司法裁判所の活用も」
(2012年8月25日、e-論壇「百花斉放」)、
「今、再び『対中外交の4本柱』を提起する」
(2016年8月7日、e-論壇「百花斉放」)等のタイトルで拙論を述べさせて頂いた。2020年の今、三度この件について考察してみたい。
尖閣諸島は現在のところ日本の実効支配下にある。中国が尖閣諸島をチベットや新疆ウイグルと並ぶ「国家の核心的利益」とみなし、中国の領土であると主張しているにも関わらず、外務省は2012年当時のまま、「日本固有の領土であり、領土問題は存在しない」との見解を繰り返すのみであり、2020年5月の日本領海への侵入や日本漁船追尾についても、ただ「遺憾」の意を伝えるのみである。2012年の拙論で、当時の日本外務省の見解をめぐっては「むしろ10年先、20年先のパワー・バランスの変化を考えた時、中国に対する日米の優位は誰も保障できず、交渉のテーブルに着かずに、無為に時間稼ぎをする現在のやり方は、中国を利するのみである」と述べた。それから8年を経た2020年、保有艦船数で中国はアメリカを上回り、5月の全国人民代表大会でも、経済成長の停滞の中でも軍事予算が6.6%増の1780億ドルと決定されたと伝えられている。今日、アジア地域・西太平洋地域における日・米・中の軍事バランスは、大きく中国優位に傾いていることは誰の目にも明らかになって来ている。2012年にも書いた通り、中国には「得寸進尺」という四字熟語がある。「こちらが一歩妥協すれば、相手はさらに付け入る」という意味であり、日本による尖閣諸島への実効支配強化につながる動きがある度に、中国マスコミで日本批判の文脈で使われている。1979年に日本が尖閣諸島でヘリポート建設を計画するも、中国の抗議により撤去させられた。
以降、日本の領土であるにも関わらず、防衛のための構造物も島には無い状態で、「日本固有の領土」と主張するのみの「現状維持」を続けて来た。換言すれば実効支配が骨抜きにされ、今では尖閣諸島領有を虎視眈々と狙う中国に軍事力増強の時間的猶予を与え、現在目にしているような、中国公船の領海侵入と日本漁船が追尾される事態を許す結果となってしまった。1895年に日本は、尖閣諸島を沖縄に編入したが、その際に現地調査を経て清国の支配が及んでいないことを確認して領有した。つまり国際法でいう「先占」の原則が成り立つ。これが日本側の一貫した主張である。然るに、2020年の現在にあっても「船だまり」や「灯台」といった地上構造物がなんら存在しないという状態を、中国が日本に「現状維持」させている狙いは、将来中国が尖閣諸島に上陸した暁に、「現地を調査し日本国の支配が及んでいないことを確認し領有した。ここに国際法でいう『先占』の原則が成り立つ」と主張できるような、つまり日本の実効支配が及んでいないと主張できる余地を残しておくためと言えないだろうか。中国は、1978年に百隻の漁船を送り込んできたことも忘れてはならない。2012年の拙論でも記載したが、既に1992年に中国は「中華人民共和国領海及び接続水域法」を成立させ、尖閣諸島を「領有」している、と明文化している。
こうした現在の国際状況を踏まえ、私が改めて提案したいのは、「日米安保体制の強化」、「言論戦」、「国際司法裁判所の活用」、「実効支配の強化」を4本柱とした対中外交の強化策である。まず1本目の「日米安保体制の強化」だが、5Gに代表される通信技術を含む経済問題、香港をめぐる中国への英国を含む懸念、それに加えてコロナ禍をめぐる問題もあり、アメリカ国民の反中感情の嘗てないほどの高まりは、2012年当時とは全く異なる様相を呈している。また、安倍政権と、オバマ前政権、現在のトランプ政権との間で関係がより強固になったことも2012年の状況とは異なる。ただ、尖閣諸島については日米共同管理のレーダー設置や、共同訓練などアメリカの関与を引き出す努力は不十分だったと言えよう。また、米国の太平洋地域における台湾へのコミットは、対中封じ込めの意味もあり非常に強まって来たように思う。中国と同様に尖閣諸島への領有権を主張している台湾とは、日本としても漁業権や資源開発等でのアプローチも含め、次のステージに向けて信頼醸成も検討する時期となっていると思われる。
2本目の「言論戦」については、尖閣ではなく南シナ海をめぐる動きであったが、アキノ政権下のフィリピンからの提訴により、国際海洋法条約に基づく仲裁裁判所の決定が2016年7月にあり、「九段線」に代表される中国の南シナ海領有権の主張が真向から否定された。中国はその際、「裁決非法無効 不接受不承認(裁判は法的根拠もない無効なものであり、受け入れないし承認もしない)」と主張した。フィリピンについては、G7諸国が伊勢志摩サミットで、南シナ海を巡って「法の支配」の強化で意見一致したにも関わらず、2016年6月末に就任したドゥテルテ大統領が、中国との経済協力に舵を切ったこと、米国やベトナムとの歩調の乱れもあり、なし崩し的に中国側の実行支配が進んでしまった。尖閣諸島をめぐっても、米国トランプ政権が対中経済包囲網の意味合いの強かったTPP(環太平洋パートナーシップ協定)から米国が離脱したこと、米中の政治・経済・軍事をめぐる対立局面の中で、日中の経済的な紐帯を重視せざるを得ない日本政府は、言論戦を進め中国を刺激することは控えていたように思う。(つづく)
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