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2020-06-16 00:00
対北朝鮮「対話路線」で失敗したトランプ外交
加藤 成一
元弁護士
シンガポールで行われた初の米朝首脳会談から2年が経過した。この間、非核化交渉は進展せず、北朝鮮は昨年5月以降、短距離弾道ミサイルを最近まで16回発射した。昨年10月には潜水艦発射型弾道ミサイルの試射も行った。核戦力も強化され、長崎大学核兵器廃絶研究センターの推計によれば、北朝鮮はすでに35発の核弾頭を保有している(6月10日付け「長崎新聞」)。このように、この2年間は単に非核化が進展しないだけではなく、北朝鮮による核・ミサイル開発を促進させる結果をもたらした。さらに、最近では韓国脱北者団体による「北朝鮮批判ビラ散布」に対しても、通信を遮断し、武力行使を示唆するなど、韓国に対しても強硬姿勢を示している。
こうした、非核化の停滞や核・ミサイル開発の促進は、一切軍事的圧力をかけず「対話路線」のみによって北朝鮮の完全非核化が実現できるとの甘い幻想を抱き、共産主義国家である北朝鮮を甘く見たトランプ外交の失敗である。周知の通り、暴力革命とプロレタリアート独裁を根本原理とする「マルクス・レーニン主義」で理論武装した共産主義者や共産主義国家は、暴力や軍事力を絶対視し、「力による解決」を信奉する(マルクス「ゴーダ綱領批判」「共産党宣言」、レーニン「国家と革命」、スターリン「レーニン主義の基礎」、毛沢東「矛盾論」、金日成「著作集」)。マルクス、レーニン、スターリン、毛沢東、鄧小平、習近平、金日成、旧ソ連、中国、北朝鮮など、すべて然りである。共産主義者であり、「主体思想」で理論武装する金正恩朝鮮労働党委員長も決して例外ではあり得ない。彼ら共産主義者は、圧倒的な軍事力行使の具体的脅威を感じて初めて譲歩し、それ以外に譲歩はしない。
したがって、北朝鮮が一定の期限までに完全非核化の具体的な行程表を提出し順次実行に移さなければ、北朝鮮内の「核実験場」「核基地」「ミサイル基地」などをピンポイントで攻撃する「鼻血作戦=BLOODY NOSE」が、北朝鮮側に完全非核化を実行させるための選択肢となろう。その代わり、米国側は、完全非核化実行の段階に応じて誠意をもって経済制裁を解除し、経済援助を行い、北朝鮮の経済発展に最大限の協力をすると同時に、北朝鮮の安全を保障する「米朝安全保障条約」を締結すべきである。
この2年間の米朝非核化交渉の経過から見て、北朝鮮の完全非核化を実現するためには、もはや上記の方法しか残されていないと思料する。なお、関連する論壇「百花斉放」掲載の拙稿として、鼻血作戦の意義を指摘した「鼻血作戦は核放棄への選択肢」(2018・2・20)、米国の非核化交渉が事実上頓挫した理由を述べた「『米朝共同声明』では北朝鮮の核を廃絶できない」(2018・6・19)、米朝の安全保障認識を論じた「北朝鮮は米国の非核化への決意を侮ってはならぬ」2019・3・26)を参照されたい。
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