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2020-06-29 00:00
歴史的偉人の断罪はいくら何でもやり過ぎだ
古村 治彦
愛知大学国際問題研究所客員研究員
ジョージ・フロイド殺害事件に端を発する、人種差別に反対する抗議活動は過激化している。アメリカが南北に分かれて戦った内戦、南北戦争で南部諸州(Confederates)の将軍たちの銅像を引き倒すということも起きた。アメリカ南部を舞台にした映画『風と共に去りぬ』の配信ができない状態だ。こうした動きはいくら何でもやり過ぎである。歴史を隠蔽して見えなくすることにつながる。サンフランシスコでは北軍の指導者で後に大統領になったユリシーズ・S・グラントの銅像やアメリカ国歌の歌詞の基になる詩を書いたフランシス・スコット・キーの銅像が引き倒された。グラントは北軍の指導者であったが、南北戦争直前まで奴隷を所有していたり、アメリカが分裂しないのなら奴隷制度は継続しても良いと考えていたりしたために過激な人々の攻撃対象となった。
エイブラハム・リンカーンはアメリカの首都ワシントンDCに大きな像が立っているほど、アメリカ史上偉大な大統領と評価されている。私たち日本人は、リンカーン大統領は奴隷制度を廃止した偉い人として習う。だから、ワシントンDCに大きな像があると思ってしまう。しかし、これは小室直樹博士が指摘していたことだが、それは主たる理由ではない。リンカーン像があるのは、アメリカが南北に分裂し2つの国として固定化すること防いだからである。つまり、アメリカの統一を回復したということがリンカーン最大の功績なのである。奴隷制度廃止は付けたしに過ぎない。公民権法が制定されたのはそれから約100年後の1964年だ。
その時代その時代の先端の人々であっても、後の時代から見れば、「時代遅れ」である。当たり前だ。当時のことを現在の視点から批判することは許容されるが、断罪するということはやり過ぎだ。サンフランシスコの抗議活動に参加した人々の中にはおそらくANTIFAの人々もいただろう。彼らからすれば、アメリカ国歌「星条旗」の詩を書いたフランシス・スコット・キーも罪深い人物ということになるのだろう。だったら器物損壊ではなく、徹底した批判をすればよい。批判は自由だ。
しかし、フランシス・スコット・キーの銅像を引き倒すようでは、多くのアメリカ人からの支持も共感も得られない。それどころか、反感を招くに違いない。トランプ大統領は「法と秩序(law and order)」という言葉を使っている。抗議活動の過激化はトランプ大統領の言葉に説得力を持たせる。トランプ大統領を当選させたくないという人々が抗議活動に参加しているだろうが、逆効果であることを理解すべきだ。
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