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2020-07-08 00:00
(連載1)ドイツからの米軍撤退による最悪の事態
河村 洋
外交評論家
ドナルド・トランプ大統領は6月に入ってドイツから9,500人の兵員を引き上げると唐突に表明し、米独両国の国家安全保障担当者達を困惑させた。留意すべき点は、海外からの米軍撤退というトランプ氏のあきれ果てた選挙公約はこけ脅しではなく、本気だということだ。今回が初めてではない。昨年秋にはテロとの戦いでアメリカの重要な同盟相手であったシリアのクルド人を見捨てた。今や自らの任期を終えようとしているトランプ氏は、アメリカ・ファーストの選挙公約の中核となる政策をヨーロッパで実行に移している。
『ワシントン・ポスト』紙5月28日付けの論説でリチャード・ハース氏が述べるように、トランプ氏の外交政策は「撤退ドクトリン」に基づいている。TPP、パリ協定、イラン核合意、その他の軍備管理合意といった多国間合意からアメリカを離脱させている。またシリアとアフガニスタンの安全保障への関与を放棄している。そして今やドイツでの米軍のプレゼンスを削減しようとしている。私はトランプ氏のアメリカ・ファーストは国際世論に恐怖と不安と不快感をもたらすということで、オバマ氏の「ネイションビルディング・アット・ホーム」の劣化版だと見なしている。
そうした世界観に従い、トランプ政権はドイツに悪意のある仕打ちをしている。マイク・ペンス副大統領のような閣僚からヘリテージ財団のヤクーブ・グリジール氏やヒルズデール大学のマイケル・アントン氏のようなナショナリストの学者にいたるまで、親トランプ保守派はドイツが利己的に同盟にただ乗りし、EUを利用して彼らが要求する主権国家による二国間主義を受け入れようとしないと非難している。さらに最近退任したリチャード・グレネル前大使は「ドイツの継続的な貿易黒字に相応する報復措置として、米軍の撤退は有り得る」という間違った認識を述べていた。
トランプ大統領の唐突な米軍撤退には、彼自身が主催するG7の7月出席をアンゲラ・メルケル首相が見合わせたことへの個人的な報復だとする情報筋さえある。ジョセフ・バイデン前副大統領の国家安全保障顧問を務めたドイツ・マーシャル基金のジュリアン・スミス氏は、そうしたやり方はアメリカの国益を損なうと評している。まさにその通りで、トランプ氏のやり方は利益相反である。(つづく)
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