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2020-07-09 00:00
(連載2)ドイツからの米軍撤退による最悪の事態
河村 洋
外交評論家
特に問題視すべきは、トランプ氏が国防総省にもEUCOM(アメリカ欧州軍)にも相談せずにこの決定を行なったことである。グレネル氏はこれを否定し、トランプ大統領は昨年から準備をしてきたと主張している。こうしたプロセスはこの政権の本質的な危険性を示している。国家安全保障上の重要な決定が大統領と彼自身への個人的な忠誠派だけでなされていることを意味するからだ。グレネル氏には軍事的な専門知識がないので、具体的にどの部隊を撤退させるかを踏まえていない。米欧双方の安全保障の専門家達は、トランプ氏がヨーロッパで「メイク・ロシア・グレート・アゲイン」に資しているだけだと懸念している。真の問題は、トランプ氏が自身の選挙活動を外交より優先させていることにある。彼の孤立主義的な支持層は、同盟国に対してもとられる強引な交渉スタイルを素晴らしき「アート・オブ・ザ・ディール」と見なし、それがアメリカ外交に酷い結果をもたらそうとも気にも留めない。
アメリカの国防政策に携わる者達にとって、ドイツはヨーロッパ、アフリカ、中東との戦略的なハブとみなされてきた。だからこそ、この国では大規模な米軍のプレゼンスが維持されている。そうした基地の中でも、シュトゥットガルトにはEUCOMとAFRICOM(アメリカ・アフリカ軍)の司令部があり、ラムシュタインには米空軍のヨーロッパおよびアフリカの司令部、NATO欧州連合軍最高司令部の連合空軍司令部、そしてイラクとアフガニスタンでの負傷兵の治療に当たったラントシュトゥール地域医療センターがある。このように、ドイツというハブがあり、そこに実質的な戦力が常置されているからこそ紛争地域へ機動的に米軍が展開できるのだ。だが、トランプ氏は必要時にはすぐにでもドイツに米軍を送り込めると思い込んでいる。トランプ氏はアフガニスタンからの撤退に関しても同様の誤解をしていたが、軍事的な観点からはそのような動力的能力運用は容易ではない。
最後に地政学的な影響も考慮する必要がある。ロバート・ケーガン氏は独『シュピーゲル』誌との昨年11月8日付のインタビューで「米軍撤退による力の真空で、ヨーロッパでのドイツ問題が再浮上してくる」と指摘する。すなわち、域内でも最大の経済力と人口を誇るドイツは近隣諸国を圧倒するようになり、20世紀初頭に見られたようにヨーロッパの勢力均衡を不安定化させかねないということだ。イギリスのマーガレット・サッチャー首相(当時)も冷戦後のドイツ再統一の際に同様な懸念を強く訴えていた。
ドイツ問題はグローバルな安全保障にもより広範な影響を及ぼしている。ドイツと同様に、トランプ大統領は日本と韓国にも自国内に駐留する米軍への経費をもっと払うように要求し続けている。カーネギー国際平和財団のジェームズ・ショフ氏は毎日新聞6月24日付けの記事で「トランプ氏はドイツのように多国間の安全保障枠組を振りかざさない日本にはより好意的に対処している」と答えている。よって、ジョン・ボルトン前国家安全保障担当補佐官の回顧録に記された支払いをめぐる執拗な圧力については、そこまで深刻ではないと言う。にもかかわらず、トランプ氏は経費負担と兵員撤退をめぐる特異な選挙公約に、実現性の如何を問わずに固執している。この政権が二期目を務めるような事態に陥れば、全世界をめぐるアメリカの同盟ネットワークには致命的な被害となるであろう。(おわり)
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